人間到る処青山あり

諸々よもやま話(とりあえず)

「情報参謀」 読了 〜結局は顧客の声に向き合えるか〜

リンクを貼る。

情報参謀 (講談社現代新書)

情報参謀 (講談社現代新書)

 

 

これもまた講談社のセールで買ったのだけれど、先日イチローの件で触れた通り、野球ではデータ分析と統計学が当たり前になってきたのだが、選挙の世界でもそれは同じ、というのは皆様ご存知かと。

本書は、野党時代の自民党に雇われた著者のチームが、どのように民意を分析し、政権奪回に向けて戦ってきたか、という記録である。

 

2009年くらいからの話なので、懐かしいというのもあるし、ちょうどソーシャルメディアが力を持ち出したことでもあり、そういった流れに、いかに対応してきたか、大変興味深く読ませていただいた。

テレビの24時間視聴記録、ソーシャルメディアの反響から政局の話題がどのように扱われ、野党である自民党の存在をどうやってアピールしていくのか、その取り組みを通じて民意が変化していく様が時系列で綴られていく。

 

結局、ちゃんとマーケティングをしましょうね、新しい時代の流れに乗っかっていきましょうね、ということであり、それが政権奪還という結果に結びついたこと自体は、ビジネス的には成功だったということだろう。

翻って、今の野党がこれだけのデータ分析をやっているかというと、甚だ怪しい感じもするので、自民党がよほど慢心でも起こさない限り、自民党政権は当分続くのだろうなぁ、という印象を持つ。

 

また、当時はまだまだ「海のものとも山のものとも」であったデータ分析に、真剣に取り組んでみようと思った自民党の幹部陣は、やはり野党になるという落ち目だったからこそ、藁をもすがる感じで決断できたのだろうとも感じた。

最近、いろいろなイノベーション、復活劇なんかを俯瞰して見ていたりするのだが、やっぱり堕ちるところまで堕ちないと、新しい取り組みにチャレンジすることは無いな、と思ったりするのである。

 

イノベーションイノベーションと喧しいが、「まだまだ日本は…」という批判的な論調が出ているうちは、まだ日本企業には余裕があるという証ではないか。

もうちょっと追い込まれる必要があるかもね。

 

まぁ、ご参考ということで。

 

「イギリス近代史講義」 読了 〜賢者は歴史から学ぶ?〜

まずはリンク。

イギリス近代史講義 (講談社現代新書)

イギリス近代史講義 (講談社現代新書)

 

 

長期の戦略を考えるために、定期的に歴史(特に近代史)関係の書籍は当たるようにしていて、講談社のセールの際に買い置きしていた一冊。

島国であり、資源も乏しい中で、どのように世界で覇権を争う近代化が行われたのか、興味があって読んだ次第(昨今話題のブレグジットを巡るドタバタを理解したかったわけではない)。

 

歴史研究というと、一般的には「〇〇の歴史」みたいな形で、特定の「切り口」があるものだと思っていたが、幅広い切り口でさまざまな角度から光を当てることで姿を浮かび上がらせる、というのが、著者の研究の特徴のようだ。

産業革命前夜からのイギリスの歴史を、人口、ファッション、働き方、風俗といった感じで解説していく。

 

雑学好きの小生にとっては、とても面白く読ませていただいた。

供給側ではなく、需要側から考えていくのもまた著者の特徴で、例えばどのようなファッションが流行ったのか、なぜファッションに注目が集まり、需要が発生したのかという解説を通じて、ロンドンの都市化の進展を解く。

 

そして、需要側から考えていくことで、当時の人々を生き生きとした姿で描き出すことにも成功しているのではあるまいか。

最終的に、GDPの減少は本当に衰退と言えるのか、金融やトレーディングは国の産業に本当に貢献するのか、そもそも発展とか衰退とはなんなのか、といった投げかけがされ、なるほど非常に深いところを考えさせられる。

 

それに対して別に答えはないのだが、過去の人間のリアルな営みを踏まえて議論されるので、空虚な数字の話ではなく、本当に目指すべき方向って、どっちなんだっけ、という投げかけに説得力があるのだった。

我が国の将来を考えるきっかけとして読むも良し、単にトリビア的興味で読むも良し、である。

 

まぁ、ご参考ということで。

イチローの引退にあたり個人のキャリアについて考えたこと(その2)

昨日はこんなエントリーを書いた。

dai19761110.hatenablog.com

 

個人的にかなり感傷的になりつつ、ではあったのだが、球団運営側ならどう考えるのかというと、全く違ってくるのである。

小生が球団経営に関わる立場であれば、まずもってイチローがいなくても、ワールドシリーズに出られるチーム作りを要請すると思う。

 

それを前提にした上で、卓越した能力を持つスター選手が何人か居れば、優勝争いに加わることができ、何割かの確率で優勝することもできる、という組立を構想する。

あくまでも、スター選手の存否に関わらず、ワールドシリーズに出られるチーム作りが「やるべきこと」で、スター選手の存在は、その先の「伸び代」である。

 

そうなると、個々の選手には最大限の努力を求めるものの、一義的にはチームの勝利に関わるKPIを達成できる選手を優遇することになる。

そして、KPIの概念を超える選手というのは、非常にありがたいけれども、常にその存在をあてにできるわけではないので、評価としては上乗せ部分で報いる、即ち結果に伴う金銭的な報酬で対応する。

 

物凄くドライな言い方をすると、並の選手でも勝てる編成が「正」であり、それ以外の要素はたとえ上振れでもコントロール外となる。

上振れ要素で優勝を狙えても、そういった選手には結果に伴うインセンティブで報いるのが筋だから、長く関係が続けば報酬も上がっていき、最後は移籍金で稼ぐのが「正」となる。

 

そんなことを考えると、能力に自信のある個人は、短期的でも報酬で評価を得る仕組みが大事で、組織に残る意思がある個人ならば、変化するKPIに最適化する動きが求められるのだと思う。

結局、昨日と同じ話なのかもしれないが。

 

まぁ、ご参考ということで。

イチローの引退にあたり個人のキャリアについて考えたこと

はじめに断っておくと、これといった明快な結論を導き出した訳ではなく、「すごくモヤモヤしている」という話である。

イチローについては、呼び捨てにしてしまうくらい勝手に親近感を持っているし、職業人の在り方として自分の姿を重ねていたこともあるし、彼の記録には何シーズンにもわたって一喜一憂した、何処にでもいる普通の40代の小生である(古畑任三郎スペシャルだって正座して見たさ)。

 

先日の引退会見に至る流れも、昨シーズンの経緯から何となく理解はしていたので、大きな驚きはなかったが、記者会見の一問一答はもちろん全部読んだ。

www.nikkansports.com

 

その会見を受けて、話題になったのがこの記事。

イチローが語った「頭を使わなくてもできてしまう野球」とは何か」

https://www.buzzfeed.com/jp/tatsunoritokushige/ichirotalk

 

この記事で解説されているのは、セイバーメトリクスといわれる統計学を用いた戦術論で、極論を言うと戦術を組み立てなくとも、フルスイングし続けたほうが勝ちやすいとされている、ということだ。

この記事を読んだ後、実際に統計学を用いて球団運営のアドバイザーとなっている人の有料メルマガも読んだ。

 

有料メルマガなので引用は避けるが、そういったメジャーリーグの傾向は肯定されており、さらに踏み込んだ解説もなされていた。

イチローのようにヒットを狙わずとも、フォアボールを狙い、次の打者が犠牲フライを撃てば点は入る。

 

そういう割り切りで選手のフォーメーションを考えれば、色々「活かしどころ」があるし、勝ちにつながりやすい。

イチローのような、走攻守を極めていく選手は素晴らしいし、そうあるべきだと思うものの、そのような高いレベルの選手はやたらに出現するわけでもなく、出現をあてにできない以上、フォアボールと犠牲フライでフォーメーションを組むのが最適解となり、となるとイチローのような選手が収まるところがなくなる、ということのようである。

 

真偽のほどは定かでないし、小生もメジャーリーグを長年ウォッチしていたわけではないので、自分なりの意見を持たないのだが、もしこれが真実なのだとすれば、なんともモヤモヤするではないか。

プロフェッショナルとしてスキルやキャリアを開発することを是とされ、それに邁進していたと思えば、組織の評価軸が変わって居場所がなくなってしまうという…。

 

イチローはフォアボールや犠牲フライを狙うバッターになるべきだったのか?

世界が変わったと諦めて引退するしかなかったのか?

 

答えは無いに決まっているけれど、小生の中で一つはっきりしているのは、「なぜ居場所がなくなったのか、人から言われる前に自分で明確に気付けるようでありたい」ということだ。

引退する時期は、せめて自分で決めたいものである。

 

まぁ、ご参考ということで。

 

 

 

「除染と国家」 読了 〜なんともゲンナリ〜

何はともあれリンク。

除染と国家 21世紀最悪の公共事業: 21世紀最悪の公共事業 (集英社新書)
 

 

多くの日本人がそうだと思うが、東日本大震災に端を発する原発の問題というのは、メディアや書き手、立場によって言うことが異なり、何を信じて良いかわからなかったし、今でもわかっていないのではないか。

そんな思いがあったので、この手のテーマの書籍を手にするのは腰が引けたのだが、本テーマでは定評がある毎日新聞記者による調査報道がベースであり、レビューも高かったこともあって拝読した。

 

福島県周辺で行われた除染事業の実態と、除染事業の意思決定を促した官僚・政治家の実像を丹念に追ったルポ。

もちろん今もなお厳しい状況下にある福島県民の実情も記されている。

 

本書で著者は、除染の問題だけを問いたいのではなく、この国の民主主義の根幹が崩れていることを主張している。

官僚組織の欺瞞、その場さえなんとかなればという短絡的思考、公僕でありながら国民が見えなくなっている姿。

 

本書で提示されていることが文字通りの事実だとすれば、大変な問題ではあるし、先日読んだこちらの書籍にも通じると思う(こちらは元官僚が書いたという意味では、なんとも・・・という感じである)。

dai19761110.hatenablog.com

 

ただ、本書では徹底的に糾弾する姿勢で書かれているけれども、最初から悪事を働こうと思って官僚機構に居座っている人は多くないはず。

特に今回の原発事故のように、未曾有かつ甚大な被害においては、安直な保身に走る以外なかったのかもしれない、とも思う。

 

「だから大目に見てやれ」などという気は全くないし、度し難い悪行だと思うものの、自らの保身に走る「小さい」サラリーマンを非難したところで、なんともやり場がないのである。

そしてこういう話は、この国では何度も繰り返してきた過去があり、「またこれか・・・」という気持ちも否めない。

dai19761110.hatenablog.com

 

とにかくゲンナリする一方なのだが、我が国で今なお苦しい立場にある同胞が存在し、その裏には日本人の悪しき伝統である組織的欺瞞があるということを、理解しておいた方が良いとは思う。

メンタルの強い時にご一読あれ。

 

まぁ、ご参考ということで。

「人類と気候の10万年史」 読了 〜気候変動の話は本書を読んでから!〜

まずはリンク。

 

著者の中川氏はこういう人。

research-db.ritsumei.ac.jp

 

 Kindle講談社セールで購入。

昔からブルーバックスは好きなのだ(30冊は読んだと思う)。

 

内容はタイトル通りなのだが、中川氏の代表的な研究は、福井県水月湖の底にある地層の年代測定研究である。

10万年サイクル、2万3千年サイクルで起きる地球の公転・自転の変容が、気候にどのような影響を与えるかに続き、それをどのように測定するのか、そして水月湖の年代測定が世界的に奇跡と言われるのは何故なのか、それらの研究から得られた10万年の気候変動とは、どのようなものなのか、が淡麗な文章で綴られている。

 

読み始めたら最後、知的好奇心をグイグイと刺激し、「あとがき」まで離してくれない。

昨年読んだ、「フェルマーの最終定理」並みの面白さであった。

dai19761110.hatenablog.com

 

詳細は本書を是非一読いただきたいのだが、小生なりに理解したところを、少しだけ述べておく。

人類が向き合っている地球温暖化の問題は、確かに大きな問題なのだが、ホモ・サピエンスが経験してきた、この10万年の気候変動というものは、地球温暖化すら霞んでしまうくらいの、非常に激しいものであった。

 

その非常に激しい変動は、一人の人間が人生の中で体感しうるくらいの、短いスパンで訪れてきたのである。

そしてその非常に激しい変動は、近い将来起きないとは言い切れない。

 

現代はたまたま気候が安定していたけれども、そろそろ安定期も長くなってきたからだ。

では、非常に激しい気候変動とは、どんなものか。

 

1993年の冷夏を憶えているだろうか?

米の備蓄がなくなり、タイ米を緊急輸入したあの年である。

 

翌94年は酷暑だったのだが、あんな変動(では済まないレベル)を毎年のように繰り返すという状態が続くのだ。

食料供給の観点だけでも、すでに人類存亡の危機。

 

気候変動の問題というのは、そういった事態も見据えて、これからの未来を考えていかねばならない、ということを思い知らされた。

しかし、著者の中川氏は、研究成果も素晴らしいのだが、書き手としての能力も非常に素晴らしいと感じた。

 

我々素人でも理解しやすく、「自分ごと」として感じられるような論理構成をし、時に研究者としての苦労や人間味を感じさせる文章は、他の著作への期待を嫌が応にも高める。

良い本・良い書き手に出会えたものである。

 

まぁ、ご参考ということで。

「利益を生むサービス思考」 読了 〜生産性向上もここにある〜

リンクを貼る。

世界一のメートル・ドテルが教える 利益を生むサービス思考 (光文社新書)

世界一のメートル・ドテルが教える 利益を生むサービス思考 (光文社新書)

 

 

新規事業開発というのは、まぁサービス設計なわけだけれど、そのサービス設計において、サービス倒れにならない知恵を仕入れたく、購入した次第。

宮崎氏の著作は今回が初めて。

 

宮崎氏は、メートル・ドテルという、フレンチレストランにおけるサービス責任者の仕事に取り組んできた人で、サービスの世界ナンバーワンの称号を獲得したこともある人。

現在は複数のレストランでメートル・ドテルとして働きながら、サービス設計のコンサルティングを行う会社を経営しており、本書では、その考え方の一端を紹介している。

 

実は小生、20代の頃に個人経営のフレンチレストランに出入りしていたことがある。

客として通っていたところ、オーナーと仲良くなり、店の片付けを手伝ったり、飲みに行ったりする中で、レストランでのサービスのあり方とか、マーケティングのイロハを教えてもらったのである。

 

ほとんどの方の認識と違うと思うのだが、ある程度の単価のフレンチレストランでは、サービス側の動きがビジネスの勝負を決めると言っていい。

アップセル・クロスセル、顧客満足度向上、リピーターの獲得などの売上貢献部分だけでなく、顧客対応を通じた厨房を含むオペレーション改善にも関わるのである。

 

それはまた何処かの機会で述べたいが、本書でもその辺りのエッセンスが語られていて、冒頭から興味を持って読み進めることができる。

面白いなと思いながら読み進めていると、イントロの盛り上がりのまま終わってしまい、「あぁ、終わっちゃうんだ」という印象。

 

「何を」「どうすれば」利益を生むサービスになるのか、という方法論を期待すると、ちょっとそこは肩透かしかもしれない。

サービスという定型化されていない分野ゆえに、なかなか体系だった説明は難しいのかもしれない。

 

とはいえ、「ちゃんと高く売る」そして「それを納得感を持って成立させるために、どう心を砕くのか」というマインドのところは伝わってきたと思う。

昨今、生産性向上の話題が喧しい。

 

生産性は(付加価値÷投下資本)で計算されるけれが、労働時間削減などの分母の話ばかり目にする。

しかし、本書で伝えるように、「ちゃんと高く売る」が実践できれば、分子が大きくなるので、生産性は大いに改善されるはず。

 

本書で紹介される、数百円のパイナップルを数千円の単価に仕上げるメートル・ドテルの技、意識しておきたいものである。

まぁ、ご参考ということで。