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「打ちのめされるようなすごい本」 読了 〜教養のブックリストとして〜

まずはリンク。

打ちのめされるようなすごい本 (文春文庫)

打ちのめされるようなすごい本 (文春文庫)

 

 

著者の米原氏は、既に故人なのだが、ロシア語通訳として活躍された人。

大変な読書家でもあり、各所で書評やエッセイを残し、今なお人気がある作家と認識している。

 

今回、著作を読んでみようと思ったのは、佐藤優氏の本を読んでいて、米原氏の名前が出てきたので、興味が湧いたから。

dai19761110.hatenablog.com

 

「交渉術」の後半は、佐藤優氏の回顧録になっているのだが、その中で米原氏は、とても一介の通訳とは思えないような存在感を纏って現れてくる。

ただの通訳なんだけれど、ロシア語通訳者が多くないために目立ったのか、それともやはり特別な人だったのか、興味が湧いたのだ。

 

本書を読んでの感想としては、やっぱりちょっと特別だったのかな、というところ。

ロシア語圏と日本語圏で育ち、それぞれの国の古典を片端から読んだという多読に裏打ちされた、幅広い教養と感性は、特に尖ったところは無くても、自ずと奥行きを感じさせるし、その独特の仕事や関わった人々との経験は、とても興味深いものを持っている。

 

本書について言うと、各種雑誌での書評を中心とした連載、エッセイを取りまとめたもので、ボリュームとしては相当多い(文庫2〜3冊分といったところか)。

連載時期は大体2000年前後で、彼女の没年を考えると晩年に近いあたり。

 

取り上げるテーマは歴史・文化などの教養に類するもの、ロシア・旧ソ連関係、そしてガンと闘病していたこともあって、詳細は取り上げられないが健康法関連。

小生がビジネス系書籍しか読まないこともあって、米原氏と読書の被りがなく、非常に新鮮であったし、ブックリストに保管したものも多数あった。

 

しかし、個人的に違和感があったのは、国際政治のリアルな場面に立ち会っていた人物の割には、ライトに流通するアメリカ謀略史観的(自民党政権アメリカの手先的なアレ)コメントが多々あったこと。

そして残念だなと思ったのは、がん治療について代替療法の方向へ振れてしまっていたことである。

 

代替療法については、著者自身も信じきっているわけではなく、少し距離を置きながら、ではあるが、「うーん、そっち行っちゃうか…」という風には感じてしまう。

人間、命の危機が迫ると藁にもすがる、ということではあろうから、小生も著者を笑うことはできないのだが。

 

また、冷静に考えると、先のアメリカ謀略史観も含め、2000年代初頭に勢いを持って流通していた言説だったようにも思うので、いかに知識・教養があるといえども、社会の風潮から無関係ではいられない、ということかもしれないのである。

単純なブックリストとしても、エッセイとしても、書評としても面白い本であったが、思想と時代性ということについても、考えさせられる一冊であった。

 

まぁ、ご参考ということで。