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米原万里氏の著作を読んで、なんとなく「呼ばれた」感じがし、2年ほど積ん読のまま寝かせていた本書を手に取る。
パワフルな女性の生き様に触れ、関連性を想起されたのであろうか。
晩年にクモ膜下出血に倒れ、9年闘病し、亡くなられたのが数年前だから、最後に表舞台で活躍したのが10年以上前ということになる。
小生にとっては、「料理の鉄人」で勝利した印象が強いのだが、随分と遠い存在になりつつある。
本書は、日本を代表する料理研究家であった小林氏の評伝。
もちろん「料理の鉄人」のエピソードも登場するのだが、あの底抜けに明るく朗らかなキャラクターと、その裏にあった知られざるエピソード、生い立ちなどが、多くの関係者のインタビューによって明らかにされる。
あとがきに関係者の言葉として「日本の料理界はカツ代以前、カツ代以後に分けられる」というものがあり、思わず「キリストかよ」とツッコミたくなるが、それほどの影響力があった人なのである。
それまでの料理研究家といえば、西洋料理や本格的な和食を、いかに家庭で再現するかという存在だったのに対し、社会進出が進む中で、それでも家事から逃れられず一層多忙になる女性たちに、家族で美味しい食卓を囲む価値を失うことなく、如何に負担を少なくできるか、という点に心を砕いた人だったようだ。
それは自身がそういう立場だったからに他ならないのだが、その思想の実現にかける氏の生き様は、一介の主婦から日本一の料理研究家に駆け上がるストーリーとして、いや、料理研究家の枠をも超える存在になってしまうストーリーとして、圧倒的な熱量で伝わってくる。
氏のコンセプト・思想は、共働き世帯が過半数を超え、本当に僅かではあるが、夫婦の家事分担が進みつつある今の時代に、男女共に傾聴すべきものとして、再評価されても良いのではなかろうか。
なんとも凄い人が居たものである。
日本においては、スティーブ・ジョブズ並に時代を変えた存在なのではないか、と思ったり。
まぁ、ご参考ということで。