人間到る処青山あり

諸々よもやま話(とりあえず)

「偉くない私が一番自由」 読了 〜教養と二人の知性の邂逅と〜

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ロシア語通訳を経て、多彩な文章をものした米原万里氏の没後10年を機に、生前交友があった佐藤優氏が米原氏の著作を選び、編したという一冊。

 

Kindleデイリーセールのお勧めに登場し、両著者とも小生の中で高い評価の書き手ということもあって、興味を持った。

米原氏の著作は、基本的に書評やエッセイなので、ビジネス目線でどうか、という観点で選ぶ作家ではないものの、特異な生い立ちとその後の仕事経験からもたらされる知性は、感服するところ。

 

その多大な著作の中から、佐藤優氏が「シェフ」となり、ロシア料理のフルコースに見立てて章立て、合間合間に佐藤氏の解説が入るという、なんとも華やかな作り。

没後10年という節目、また生前の米原氏が健啖家だったことも、本書の趣向に影響を与えているものと思う。

 

内容については、書評、エッセイ、寄稿文に、果ては大学の卒業論文までと、多岐にわたる。

米原氏が通訳になったのは大学卒業後にたまたまの縁で、ということのようだが、国際会議の通訳にあたっては、その会議のテーマとなる本を何冊も読んで臨んでいたというから、その知識・教養たるや、である。

 

通訳引退後も、一日5、6冊は読んでいたそうなので、凄いものだ。

そんな米原氏に対し、佐藤氏が色々な角度から光を当てていくわけだが、この偉大な教養人二人は、お互いを尊敬しつつも、常に距離を保ちながら交友関係を育んでいたようだ。

 

二人の思想・主義主張が大きくかけ離れている、ということが大きな要因で、お互いにその点を理解していたから、それ以上踏み込まなかったようだ。

しかし、佐藤氏の弁によると、直接お会いしたのは10回前後という。

 

それでもこれだけの理解というのは、友情というより、ライバル関係に近いのではないかと感じたりする。

お互い強い個性を持ち、相容れないながらも敬意を持って接する、非常に希有な相手として認識しあっていたのではなかろうか。

 

そんな関係性、羨ましいものである。

まぁ、ご参考ということで。

 

偉くない「私」が一番自由 (文春文庫)