人間到る処青山あり

諸々よもやま話(とりあえず)

「熱海の奇跡」 読了 〜その地に根ざす覚悟〜

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熱海の奇跡

熱海の奇跡

 

 

 昨今の新規事業では、「地方創生」に資するテーマがよく検討されている。

とても重要だし、意味もあるし、多くの人がチャレンジするテーマなのだが、なかなか成功事例というのが乏しい中で、明快に再生を成し遂げたのが熱海である。

 

本書は、その躍進の中心を担った著者による奮戦記といったところ。

著者は元々熱海で生まれ育ち、東京の大学を出てコンサルティング会社に勤務した後、Uターンして文字通り徒手空拳で地元の復興に取り組んだのである。

 

読んでいただければわかるが、「地方創生」というのは生半可で実現できるものではないのだな、ということを強く実感させられる。

衰退には衰退した理由があり、ちょっとしたアイデアやノウハウ、ツールの類では解決など覚束ない。

 

ビジネスの成功には、「天の時、地の利、人の和」が必要と言われることがあるが、熱海の再生にも「天地人」が揃っていたように思う。

まず天の時であるが、

・国内の観光需要が「安近短」にシフトしつつある時代の変化

・若い世代を中心に、田舎暮らしに憧れるニーズ

・行政や地元財界の世代交代のタイミング

などが挙げられる。

 

地の利については、

・東京から一時間圏内という圧倒的利便性

・海山に囲まれた自然環境

・どこの県にあるかは知らないが、熱海は知っているという圧倒的知名度

人の和は、

・著者を始め地元に愛着のある若手、世代交代した行政や財界関係者の存在

・熱海を気に入って移住してきた比較的若い年代の存在と協力

・若者に新しい取り組みを託したシニア

といったところだろうか。

 

小生の整理でご理解いただけたと思うが、じゃあ実際これらの天地人が、他の地域で今後、揃うことがあるのか、である。

まさに本書のタイトル通り、そんなことは「奇跡」と読んでもいいのかもしれない。

 

と、あっさり断じてしまうと、いままさに課題に直面している地域の方々にとっては、解決にならないかもしれないが、天地人それぞれの要素を振り返っていただきながら、その地域なりの勝ち筋(主に地の利だろう)を見出していくしかないのだろう。

そして、やはり最も重要なのは、その地域に根ざした人々が、本気で活動し続けるか。

 

本書の著者もそうであるが、その地域から絶対に逃げない人々が、一生懸命活動するからこそ、周囲も動いていくし、動いていくことで、その地域に住む人々自身が変わらなければ、地方創生など起き得ない。

小生は故郷が田舎にないので、もし地方創生に関わるとすれば、外部の人間として、ということになるのかもしれないが、如何に地元の方々が主体的動きたくなるような仕掛け、お手伝いができるかを、「背中を見せてついてきてもらう」くらいの気合で臨まなければいけないのだろうな、と考えさせられたのである。

 

もう一つ、これは蛇足かもしれないが、熱海はとことん「落ちた」ので、「火がついた」ところはあると思う。

本気にならないうちは、まだまだ危機的な状況ではなく、なかなか改革は進行しないかもしれないな、ということも考えさせられた。

 

まぁ、ご参考ということで。

 

 

 

「働く女の腹の底」 読了 〜やっぱり世の中は良くなっている、と思う〜

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働く女の腹の底 多様化する生き方・考え方 (光文社新書)

働く女の腹の底 多様化する生き方・考え方 (光文社新書)

 

 

博報堂キャリジョ研という、働く20〜30代の女性のインサイトを研究する有志のチームによるリサーチ・レポート。

世の中の消費は女性が回しているとも言われており、新規事業開発や商品開発の上で、女性のインサイトを理解しておくのは必須。

 

本書では、それら20〜30代の女性を7パターンに分類しており、それぞれの生活パターンや仕事・恋愛・消費などに対する考え方を、物語形式で解説していく。

後半に、ある種全体の総括的に、犬山紙子氏へのインタビューが掲載されている。

 

※犬山紙子

lineblog.me

 

で、その7パターンなのであるが、もちろんすべての女性がこの7パターンに納まるわけではないものの、「あぁ、こういう人、いるいる」という納得のペルソナ(さすが博報堂)。

そして、それぞれ全然違うキャラクターではあるものの、生身の人間としての考え方や生活に、それぞれ共感できるところもあり、とても面白いのであった。

 

たぶん、おじさん向けに、だと思うが、彼女たちの世界で流行っているものやキーワードに対して、いちいち脚注がついているけれど、小生の仕事柄というのはあるにせよ、そんなのは普通に知っているので、どんな「おじさん」が読むことを想定してるんや、と少し突っ込みたくはなった(ちなみに本書は2017年の調査なので、ほぼ最新キーワードと言って良い)。

むしろ、専業主婦願望など多数派ではなく、人生の様々な項目に優先順位をつけながら、時に真剣に、時に肩の力を抜きながら生きる姿は、親世代や小生の少し上の世代の呪縛から解かれつつあるようで、「日本もやっとまともな国になってきたんだな」と、少し安心する。

 

とは言え、後半の犬山氏へのインタビューで指摘される、まだまだ根深いハラスメントの実態であるとか、改善すべきことはあるのだけれども。

ちなみに、犬山氏は「マウンティングはコンプレックスの裏返し」と喝破しており、なるほどそう考えればイラつかないで済むなと感心した。

 

本書の冒頭で、男性は「あれか、これか」女性は「あれも、これも」というような分析をしているが(ケーキカット型とチャーム型と表現している)、我々男性サイドも、なんとなく小生から下の年代あたりから、「あれも、これも」に近づいているというか、本書の7パターンに近い人々が増えているような気がする。

そういう意味でも、性別に関係なく、時に真剣に、時に肩の力を抜きながら、自分らしい人生を生きるようになってきた今の世の中は、やっぱり良くなっていると思うんだよね。

 

まぁ、ご参考ということで。

 

 

新規事業に関する雑感(2018年末ver.)

この4年半の間、自分なりに一生懸命、企業の新規事業創出のお手伝いを頑張ってきて、いま思うことを記しておく。

お断りしておくが、特定の企業のことを申し上げているわけではなく、沢山のお仕事を頂戴する中で、自分なりに「見えてきたこと」のメモである。

 

①そもそも新規事業を考えられる人材を採用していなければ、まともなアイデアは出てこない。

※「素人の考え」は、やっぱり「素人の考え」。発想力はたかがしれている。

 

②考えられたとしても、組織の心理的安全性と信頼関係がなければ、社員から提案はされない。

※「ウチの経営陣に何言ってもムダ」と思っていたら提案なんかしない。

 

③提案がされても、新規事業に取り組む意思と、組織の価値観がしっかりしていなければ、良し悪しを評価できない。

※結局、やる気と、組織としての好き嫌いが(良くも悪くも)存在しないと、選びようがない。

 

④良し悪しが評価できたとしても、リスクテイクする胆力がなければ、実行に移せない。

※誰かが責任を取る立て付けになっていなければ、「やる/やらない」の決断はできない(合議制ではフィジビリという名の”先送り”になりやすい)。

 

⑤実行に移せたとしても、未知のプロセスを前に進める馬力がなければ、立ち上がらない。

※実行して初めてわかる大変さは、たぶん当初想定の10倍はあるだろう。

 

⑥立ち上がったとしても、適切なタイミングに適切なリソースを投下する判断力がなければ、成功できない。

※いつまでも起案者一人にまかせていたら、スケールするわけがないが、立ち上げ初期の試行錯誤の中で、リソースを追加投入するのは、もの凄くセンスが必要(「やる」意思決定より難しい)。

 

これらは、社内提案制度を導入すれば解決するような問題ではない。

それでも「導入しないよりマシ」という考え方もある。

 

もちろんその考え方は否定しないし、そう言って、導入の営業をかけることも、あるにはあるが、機能しない制度というのは、結構リスキーだと思うのだ。

制度を導入しても、新規事業の成果が生まれなければ、上記②の組織内の信頼関係が毀損するリスクがある。 

 

結局、組織や風土を本格的に変化させる取り組みを、時間をかけて行わなければ、上記のどこかのプロセスで止まってしまい、新規事業が生まれることはないし、その取り組みを、ある程度の覚悟を持って、やり切らなければ、組織の信頼関係を毀損するというリスクを乗り越えることは難しい。

つくづく、「イノベーティブな事業があるのではなく、イノベーティブな組織があるだけ」と思うのである。

 

10年の計、20年の計をもって、目先の制度など不要になるような、イノベーティブな組織に生まれ変わる覚悟を持てるのか?

会社全体の意志が問われている。

 

まぁ、ご参考ということで。

「FREE」 読了 〜初版は古いけれど色あせない本質、ただし長い〜

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フリー[ペーパーバック版] 〈無料〉からお金を生みだす新戦略

フリー[ペーパーバック版] 〈無料〉からお金を生みだす新戦略

 

 

原著の初版はそもそも10年近く前であるが、「ロングテール」を提唱した著者による新著として結構話題になったことを記憶している。

インターネット時代を迎え、無料でサービスが享受できる(事業者側からすれば、無料を軸にビジネスを構築する)社会について、網羅的に解説した一冊。

 

Amazon電子書籍のセールでポチってしまい、今更感があったのだが、エポックメイキングなビジネス書は一応読んでおきましょう、ということで拝読した次第。

読後感としては、本書で解説されているような動きは、本当に当たり前になったなぁ、というのが、まず一つ。

 

今日現在ビジネスを考える上で、フリーミアムモデルを含む、無料のサービス提供などの選択肢を検討することは、もはや常識と言ってもよく、そういう意味では不可逆的な変化を示した本だったなと。

もう一つは、まだまだ「フリー」のビジネスモデルは、普及期にあるなということ。

 

本書は結構長いのだが、取り上げられる事例一つひとつ、まだまだ試行錯誤のアイデアもあれば、実際に試してみたいものもあり、「フリー」のビジネスモデルが、一つのパターンとして確定した感じはしない。

本書の帯にも「これからが本番だ!」と気合を込めて書いてあるが、まさにそういうことなんだろうと思う。

 

蛇足だが、「ロングテール」の方は、案外ビジネス的には「違うかも」という意見がいくつか出ているように記憶しているけれど、「フリー」の今後については、ますます期待しつつ、自分でもそういったビジネスを考えていきたいと思う次第。

さらに蛇足を重ねると、ビジネスモデルとしての「サブスクリプション」も、ちょっと興味があるので、後日改めて拝読したい。 

サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル

サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル

 

 

まぁ、ご参考ということで。

 

新規事業のターゲット市場について

新規事業の検討において、ターゲットとする市場が大きいのか小さいのか、みたいな議論は良くある。

「新規」事業なんだから、ターゲットとする市場なんて存在しないのだ、わかるわけがない、という議論も、良くある。

 

ターゲットとする市場なんて存在しないのだ、という議論については、本当に無いと思われるケースと、検討が荒くて見えていないだけというケースがあると感じている。

新規事業において、ターゲット市場を明らかにする(明らかになる)流れというのは、経験上はこんな感じだ。

 

・顧客ニーズが見えているから、やろうとしている事業の提供価値が腹落ちする

・事業の提供価値が見えているから、それに対する(代替品も含めた、真の)競合が理解できる

・競合が見えているから、(競合が待ち構える)ターゲット市場が浮かび上がる

 

で、浮かび上がった市場が大きいか小さいかが、その時わかる。

 

もしその浮かび上がった市場が小さかったとしても、確かな顧客ニーズがあれば、持って行きようがある。

逆にターゲット市場から入って、細切れする形で顧客を見定めていっても、確かなニーズを拾っていないと、ニーズが掴めていないために、極めてあやふやな事業案として終わってしまう。

 

で、ターゲット市場が存在しない、新しいマーケットなのだという冒頭の主張に対して は、代替品も含めた広いターゲットを設定すると、「存在しない」という議論に無理があることがわかる。

およそ大概のプロダクトが、純新規の商品開発のようでいて、なんらかの市場をリプレイスしているのだ。

 

なので、安直に市場が存在しないということは、慎重に考えられるべき。

何れにしても、新規事業における対象市場の選定は、茫漠と最初に着手するようでいて、その事業の本質的な価値が見極められていないと掴めないという、極めて重要な論点だと思うのだ。

 

まぁ、ご参考ということで。

 

組織の「知」をどうやって残すのか?(ただの投げかけ)

企業の新規事業のお手伝いをしていて、つくづく考えるのだが、様々な試行錯誤が積み重なる新規事業ほど、企業にとって学びになるものは無い。

しかし多くの企業において、その学びは特定部門の特定人材に集中し、属人化してしまう。

 

大抵の企業には、「新規事業立ち上げ屋さん」が居て、大抵は偉い人から降ってきたオーダーを形にし続ける。

組織全体からみれば、特殊な人の特殊ミッションなので他人事となってしまうし、「立ち上げ屋さん」本人も、亜流のキャリアを歩まされているようで不安になってしまう。

 

そうなると、一つ一つの経験が組織の学びとして横に広がっていかないし、それらの経験を抽象化してどのように戦略に反映させていくか、という縦の展開も起きない。

そして「立ち上げ屋さん」の異動、退職、引退と共に全てが消失してしまう。

 

そのノウハウを補う我々は商売が絶えないのだが、そういう問題ではないのだ。

どうやったら新規事業の学びを、組織に還元できるのか、日々考えているのだけれど、今日たまたまこんな記事を見た。

gigazine.net

 

学びを蓄積するには時間も必要なようだし、結局は繰り返ししかないのか?などと、色々考えさせられる。

今、小生に何か明確な答えがあるわけではないのだが、アリに出来て我々に出来ない道理は無い。

 

引き続き色々と試行錯誤をしていきたいと考えている。

まぁ、ご参考ということで。

問題は「ゆがみ」があること

以前、夕張市の記事を読んだ際、その中の記述に、炭鉱町として栄え、人工や行政の予算規模、インフラが膨らんだから破綻した、というものがあった。

繁栄を前提としたからこそ「衰退」が起きるのであって、かつての人工や予算規模のまま戦後を過ごしていれば、ここまで致命的にはなっていなかったのだと。

 

以前、こちらの本を読んだ際も、似たような記載があった。

 

人口問題というのは、減少していくことそのものも問題なのだが、偏ったボリュームゾーン団塊世代団塊ジュニア世代)の存在することが大変なのである。

ボリュームゾーンを支える仕組みは、その時は良くても、後々使うことができない負債として国民全体にのしかかる。

 

今日もビジネスの話題でいろいろ盛り上がったのだが、既得権でガチガチだったり不合理な商慣行が残っている業界というのは、かつて「大きく儲かった業界」であるような気がする。

かつて儲かった成功体験があるので、止めない(止めることが出来ない)。

 

しかし、市場全体はシュリンクしていっているので、儲けどころは絶対に死守し、新規参入者を徹底的に排除する。

結果、ユーザーにとって理不尽な構造が残っているにもかかわらず、改善されない(新規参入者がユーザー目線の大義を掲げても勝てない)。

 

人工にせよ、予算にせよ、ビジネスの規模にせよ、時系列で追った時に「ゆがみ」が生じると問題が起きる。

線形で推移しているのであれば、なんとかなるのだが、波を持って変動していると色々大変になっていく。

 

自社の事業や、これから参入しようとしている業界が、「ゆがみ」がある歴史なのか、線形で動いているのか、それによって業界課題のインパクトと、対処法が変わってくるような気がしているのである。

ちょっと抽象的なんだけれども。

 

まぁ、ご参考ということで。