今の住所に落ち着いてから17年とかなんだが、今更通い出した近所の本屋がある。
規模や立地を考えると、地元の篤志家が根性と気合いで経営している店に違いないと思い、極力そこで買い物しようとしている。
で、マニアックな武術の本とかは流石にないし、今時のベストセラーやビジネス書もイマイチなので、いつかは読もうと思っていた文庫とかを買うことに。
ジョン・ル・カレ原作の映画は見たことがある。
非常にシリアスなストーリーで、結構好きだったんだよね(ブルーレイ持ってます)。
スパイものなのだが、007シリーズみたいなドンパチはなく、淡々と頭脳戦が進んでいく。
あ、ご存知ない方のために言っておくと、ジョン・ル・カレは本当にイギリス情報部に勤務していた人なんですね。
で、「寒い国から帰ってきたスパイ」は、上記映画の前段に当たる作品。
1960年代くらいが舞台だろうか。
主人公の諜報部員は、東ベルリンでの諜報活動で重要なエージェントを殺されてしまうという失態を犯し、イギリスへ戻される。
そこから・・・という話なのだが、サスペンスあり、ドンデン返しがありと、非常に楽しめた。
底流には個人と全体の相剋というような大きなテーマもあり、エンタテインメントでありながら近代文学的な奥行きも感じられる、というと言い過ぎかもしれないが、「よくできた作品」と評するくらいは許されるだろう。
「個人と全体の相剋」と書いたけれども、国家の段階的発展のためには個人の犠牲を厭わない、という社会主義・共産主義的イデオロギーに対し、戦いを挑む西側陣営もまた、その作戦に従事する個人の犠牲の上に成り立っているという矛盾、そんな話。
で、問題は、そんなイデオロギー対立、みたいな過去を、これからの世代にはきっちりレクチャーした上でないと、この本は理解できないんだろうなぁ、ということを思う。
件の本屋には、小学生の娘と訪れたので、パパが買った本を読みたがるわけだが、小学生に向いているかどうかというより、その背景説明が必要なんだよなぁ。
時代は変わったね。
それでも、本書の解説にあった通り、「スパイ小説の金字塔」であることは変わりあるまい。
著者の次の作品を読もう。
まぁ、ご参考ということで。