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「暗黒・中国」からの脱出 逃亡・逮捕・拷問・脱獄 (文春新書)
- 作者: 顔伯鈞,安田峰俊
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2016/06/20
- メディア: 新書
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背筋が寒くなり、心は熱くなるという不思議な本である。
かつて民主化運動に従事し、現在タイに亡命している元中国共産党幹部による、官憲からの逃走・亡命に至る手記で、時期としては2013年前後とごく最近の話。
大学講師だった著者が、習近平政権初期に、かの政権が掲げる反腐敗と同様のテーマで、合法的なデモ活動に参加していたにもかかわらず、いつの間にか反社会的勢力として追われる身に。
以来、およそ二年に渡る国内外の逃亡、収監・尋問・再逮捕・脱出を経て、亡命に至るまでの克明な手記。
あたかも第二次大戦中のレジスタンスのようでもあり、ミャンマー国境域の軍閥の手引きで他国に出入りするあたりは冷戦時代のスパイ小説のようでもあるが、数年前(そしておそらく現在進行中)の話である。
とても現実とは思えない内容に驚き、如何に我々が表層的な情報で彼の国のことを判断しているか、ということを知らされる。
本書の終盤、密入国したタイの農家の女性に、「中国は良い国だ」と言われ、複雑な心境になるシーンが綴られる。
「爆買い」のイメージで豊かな国と思われているのかもしれないが、そんな人々は社会階層の極めて少数の人々だし、中国の辺境の農村地帯などは、そのタイの農村より社会インフラが脆弱で、そもそも「良い国」なら亡命などしない。
逃亡生活とそのプロセスでの人々との出会いとともに、そんな彼の国の実態が語られていく。
しかしそれにしても、綴られる内容がシリアスなので、非常に不謹慎な表現で申し訳ないのだが、本書は非常に「読ませる」のである。
水滸伝や孫文などの英雄譚に思いを馳せることで、逃亡生活の支えとした記述があるのだが、まさに大権力を相手に、持てる力を振り絞り、多くの仲間との出会いと別れ、時に危ない橋を渡りつつも、人の情や義に支えられて生き延びていく様は、まさに中国の武侠小説のようで、返す返す申し訳ないが、ワクワクドキドキである。
著者が、昔でいう科挙通過者のようなスーパーエリートで、経済学などを専門に持ちつつ、友のために漢詩を詠む、という高い知能と深い教養に裏付けられたものだと思う。
ビジネスの世界でも、中国との関わりは最早不可欠のものとなりつつあるが、本書を読んでみて、今一度冷静に彼の国の状況を理解したいものだと、強く感じた次第である。
まぁ、ご参考ということで。