先日、新規事業とは別の領域の、スーパーコンサルタントのプレゼンに同席したときのこと。
そのスーパーコンサルタントは、凄まじいソリューションを持っているのだけれど、安直にそれを提示したりしない。
あくまでも現状分析を徹底的に行うことをお勧めするのである。
人事系のコンサルティングなのだが、そういったお話はともすると、人事制度を設計して、運用して終わりになりやすい。
”人事制度”という、目には見えないけれど分かり易い形を伴っているので、制度を導入することがゴールになり、本当にそれで問題が解決されたのか、検証がおろそかになりやすいのだと思う。
また、人事に関わることは特に、生身の人間が関わるので、企業も現象面に振り回されてしまい、その原因となる構造まで理解が及びにくく、そもそも”問題”が何だったのか、よくわからないまま制度設計が進行してしまうことがあるのではないか。
スーパーコンサルタントはその点を明快に指摘し、現状分析にかなりのパワーをかける提案をしているのである。
まぁ、コンサルティング業であれば、極めて当たり前の手順なのだが、何らかの制度導入・体制構築自体がゴールになってしまうのも、残念ながら良くある事態。
さて、小生が関わる新規事業の領域でも、冷静に”問題”が何なのかを見極めなければならない事案が増えているような気がする。
企業の新規事業(広く”イノベーション”でも良い)に対する真剣度合いは、ますます高まるばかりである。
社内提案制度が検討されていたり、CVCやアクセラレートプログラム、マネジメント直轄の新規事業部隊など、様々な制度導入・体制構築が検討されているのだが、それらを推進することによって解決しようとしている”問題”が、ややボンヤリしているのではないか、と心配している。
「イノベーションを起こさねば!」「新規事業をやらねば!」という掛け声を否定するつもりはないのだが、ではその会社で、本当にイノベーションは起きていないのか、新規事業が生まれていないのか、ということは、そもそも検証されていないように感じる。
新規事業が生まれていないのなら、それはそもそも取り組んでいないのか、取り組んだけれどうまくいっていないのか。
うまくいってないのなら、それはみんな失敗する程度の「うまくいってない」なのか、他所と比べて酷い有様なのか。
また、本業が衰退するから新規事業を、という動機があるけれど、本業の衰退が需要の縮小や、ビジネスモデルの賞味期限が切れたことによるなら、ある種それは仕方がないことだ(努力不足なら普通に頑張るだけだ)。
本業が100億縮小する見通しだから、新規事業で200億作りたいとしても、100億の縮小という”問題”に対して、200億の新規事業というのは、「数字合わせ」であっても、解決策というには不確実すぎる(新規事業の成功は極論「天の時、地の利、人の和」が決める)。
むしろ、こちらの方が「数字合わせ」の色が強いようにも思うが、売上200億円の会社を買収する方が、まだ論理的な解決策と言えよう。
本業の縮小が”問題”なのであれば、解決策は必ずしも新規事業とはなり得ない。
では、本業の縮小への解決策にならないのに、なぜ新規事業に取り組むのか?
小生は、新規事業に取り組むこと、不確実な未来に予測を立ててチャレンジすることこそが、企業に長期的な競争優位をもたらすからだと考えている。
企業を取り巻く環境が激変することは良くあるし、事業そのものの賞味期限が切れてしまうこともある。
本来、事業というのは、極めて不確実なものなのだが、知らず知らずのうちに、確実だと思い込んでしまっているだけで、どんな会社でも、日々不確実な未来へのチャレンジが求められるはずだ。
その「思い込み」を取り払い、不確実な未来にチャレンジする、その精神を忘れないために、新規事業に取り組み、その姿勢が企業に長期的な競争優位をもたらす。
だから、新規事業は誰か特定の担当者が考えるものではなく、全社をあげて取り組むものなのだ。
話が色々錯綜してしまったけれど、何の”問題”を解決するために新規事業をやるのか、その”問題”は明らかにされているのか、それは本当に解決しなければならない”問題”なのか、解決策として新規事業を掲げることは本当に正しいのか。
そういった議論は、一度立ち止まって冷静に行われる必要があるのではないか。
まぁ、ご参考ということで。