人間到る処青山あり

諸々よもやま話(とりあえず)

「教えない授業」 読了 ~新たな教育の形なのか~

まずはリンク。

教えない授業――美術館発、「正解のない問い」に挑む力の育て方

教えない授業――美術館発、「正解のない問い」に挑む力の育て方

 

 

昨今、山口周氏の著作のヒットもあって、ビジネスパーソンの間でもアートを学ぶことの興味関心がちょっとしたブームになりつつあるかもしれない。

本書は、その美術鑑賞を活用した授業を、主に小学生向けに実践してきた著者による解説本である。

 

山口周氏の著作に感銘を受けた読者の一人であり、小学生の子を持つ父親として、興味を持った次第。

本書では、その授業の意義や実践方法、実践例、注意点などがわかりやすく説明されており、読者の想定は小学校教員や美術系研究員かと思うが、親が自分の子供に自己責任でやってみることもできそうだ。

 

本書で提唱しているのは、それなりに著名な絵画を複数名で鑑賞し、感想や気付きを共有しつつ、認識を深めていくワークショップである。

もちろん正解はなく、よく観察し、多様な意見を交わし合うことで、「みる」「きく」「考える」「説明する」という力を総合的に伸ばそう、というもの。

 

本書で著者自ら述べる通り、まだ実践例が少なく、再現性も低いものなので、学術的に本当に効果があるものなのかは、まだまだ研究途上ということだが、関わった方々は一定の手応えを感じているようだし、小生自身も子育てで課題だと感じているポイントに効くような気がしたので、ちょいとやってみようかと思っている。

今急に思い出したのだが、大学の時の憲法の短期ゼミに参加した時に、これと似たような刺激を受けたような気がする。

 

意見が別れた憲法裁判の判例をベースに、ゼミの参加者が自由に見解を述べるというものだったが、たしかにあれはいろんな意味で勉強になった。

ご興味のある方はぜひ。

 

まぁ、ご参考ということで。

 

「幸福な監視国家・中国」 読了 〜今だから読まれるべき一冊〜

リンクを貼る。 

幸福な監視国家・中国 (NHK出版新書)

幸福な監視国家・中国 (NHK出版新書)

 

 

フォローしている著名人のブログで紹介されて、思わず手に取った一冊。

これはぜひ多くの人に読んでいただき、哲学、社会学、プライバシー、事業開発など、多面的なアプローチで議論したいと思わされる本である。

 

メッセージ、決済系のアプリをフックに、社会そのものの在り方が変化しようとしている現代中国の実態を取り上げながら、その社会学的意味や、他の国との比較において論じるという骨太な一冊。

冒頭が昨今の中国最新事情なので、ビジネス系読者の興味をグイグイ引っ張るが、中段から社会学法哲学的な議論にシフトするので、ちょっと読者を選ぶような気がするが、現代中国の在り方と、日本を含むそれ以外の国々との対比は、色々と考えさせられるところがある。

 

中国に対する著者の主張は、専門でもなく中国籍でもない小生に是非を述べるのは難しいのだが、民主制だが迷走する国と、独裁制だが国民の人気取りをする国とどちらが国民にとって幸せなのか、あまねく監視カメラで録画される代わりに、たとえ最愛の娘が誘拐されてもすぐに見つかる国と、そうではない国のどちらが幸せなのか、などという形で問題提起されると、非常に悩むところである。

この辺りは、もはやアメリカのSFあたりに答えを求めた方が良さそうな気がするが、まさに現在進行している実態なのである。

 

もちろん中国では、少数民族に対する洗脳なども行われていて、それは本書でも取り上げられており、非難されるべき現実としつつも、都市部で実装されつつある「幸福な監視国家」と、GDPRをはじめとする、他の国で目指そうとしている姿を比較した時に、功利的に社会を望むであろう多くの人に対して、重大な問題提起を行う本だと言えよう。

小生の周りには、「中国スゲー」という人も、「あれはいくらなんでも」という人も両方いるのだが、それぞれの顔を思い浮かべつつ、非常に考えさせられるのであった。

 

広く読んでいただき、色々と意見を戦わせてみたい本である。

まぁ、ご参考ということで。

「リピート率90%を実現させた人気ネイルサロンの作り方」 読了 〜結局差別化ってこういうこと〜

とりあえずリンク。

 

ネイルサロンに興味があるわけではなく、コンサルをする予定もないのだが、経営者の成功談を立て続けに読んでいた流れで、積読在庫から引張出してきた次第。

スモールビジネスでの勝ち筋って、結構普遍的なので、時々この手の本は読むようにしている。

 

著者は、専業主婦から一念発起してネイルサロンの経営に乗り出し、組織化・多角化も果たした方。

内容はまぁ、タイトル通りなのだが、「まずは3年後の目標を言語化しましょう」みたいな自己啓発っぽいテイストもある(悪いとは思わない)。

 

メモ的に印象に残った部分を個条書きすると、

・「ありたい姿」は、なおざりにせずちゃんと考えましょう

・こうなりたいという経営(者)を見つけ、徹底的にパクりましょう

・付き合いたくないお客さんをはっきりさせましょう

・損益や在庫はちゃんと管理しましょう

・業界の常識に囚われすぎないようにしましょう

といったところだろうか。

 

そりゃそうだよね、と思う。

著者の場合、早くから組織化を意識していたので、ビジョンが無いと人は集まってこない。

 

パクるのもある種の「素直さ」なので、これも大事でしょう、と。

付き合いたくないお客様を定義するということこそ、顧客のセグメンテーションであり、差別化なんですよね、などなど。

 

非常にライトに読める本なので、こういう「独立開業」系のビジネスに興味のある人は、是非読んでみたらと思う。

蛇足なのだが、この手の経営者の成功談系の本を読んでいて、やっぱり男女差ってあるのかなぁと感じる。

 

もちろんどちらがどうこう、というのではないのだが、なんとなく男性は「承認欲求」が根底にあり、女性は「自己実現」なのかな、なんて感じたり。

どちらも同じといえばそれまでなのだが、「自己実現」は自分が満足すればそれで完成なのに対し、「承認欲求」はキリがなく切望し続ける、みたいな感じで、経営観(キャリア観?)に反映されるような気がしなくもない。

 

ほんと余談だが。

まぁ、ご参考ということで。

 

「クレイジーで行こう!」 読了 〜読んでいて楽しいベンチャー物語〜

まずはリンク。

 

日経ビジネスオンラインでの連載を目にしていて、面白い人もいるものだと注目した著者による一冊。

基本的にはその連載をまとめた内容である。

 

著者は、一時期話題になったロボットベンチャー(googleへの売却を果たした)の経営者であり、本書でも経緯が記されているが、2回目のエグジットも果たしたシリアルアントレプレナーである。

本書では、その2回目の起業・経営にまつわる記録や著者の思いが率直に綴られており、非常に面白い。

 

シリコンバレーの地において、異邦人(とはいえ現地の人々はほとんど移民だったりするが)がスタートアップを運営する難しさや、採用や資金調達の試行錯誤、そして万国共通であろう優秀な人材との向き合い方など、かたや説明に納得しつつ、かたや異国の地での困難さにため息をつき、手に汗握りながら読了してしまうのである。

著者のビジネスが成功することを願ってやまないのは良しとして、実力がありながらナイスガイという人物の集まりを作れるのか、ということに関しては、まだまだこの国は発展途上だろう。

 

雇用の流動性は、昨今かなり当たり前となった感はあるが、これだけの一線級のひとびとが、自分の成功のために日本で広く機会を求めるには、もう少し時間がかかるだろうなと感じてしまった。

そんな感傷はさておき、ベンチャーの創業ストーリーとして、かなり面白い一冊なので、「ベンチャー」「スタートアップ」という単語に興味があるかたであれば、ぜひ一読を進めたい。

 

何より楽しく「リアル」が学べる一冊だと思うので。

まぁ、ご参考ということで。

「成功に奇策はいらない」 読了 〜そうだと思います〜

リンクはこちら。

成功に奇策はいらない――アパレルビジネス最前線で僕が学んだこと

成功に奇策はいらない――アパレルビジネス最前線で僕が学んだこと

 

 

本書の著者が経営をしていた時代のディッキーズというブランド、日本法人の躍進ぶりは存じ上げていて、著作を出されたのか、おぉなるほどと思って購入した次第。

末席ながらファンド業界にいたことがあり、プロ経営者の方々とも触れ合う中で、本書タイトルは小生も想いを同じにするところであった。

 

本書では、著者がディッキーズというブランドを経営することになった経緯、どのような志で経営にあたったか、社員や取引先といかに向き合ったか、といったことが熱い筆致で綴られている。

内容そのものは、本書のタイトル通り特別なことはなく、また生々しいエピソードの披瀝はごく一部なので、同業経営者が今日すぐに役立つというより、あくまでも「姿勢」を説いた本と言えよう。

 

著者の経営に関しては、客観的に成功と言って良いと思うのだが、その裏付けがあるだけに、同業の経営者に対する批判は非常に厳しく見えてしまうので、著者に対する反論も多くあるはず。

しかし、著者の説くところは、小生も大いに共感する。

 

今の日本のビジネスシーンにおいて、そもそもスタートラインで勝利に対する意欲がない人が多い。

勝つ意志がないのであれば、そもそもリングに立ってはいけないのだが、勝てない言い訳をしながら渋々リングに上がる日本人は多い。

 

「ここなら勝てる」「絶対に負けられない」「何としてでも勝ちたい」など、テンションの差はともかく、そう願える領域をいかに見つけ、正しい努力をすることこそが経営であり、仕事であると思うのだが。

普段からそのように感じている人にとっては、「やっぱそうだよね」と、自信を深めてくれる一冊だと思う。

 

まぁ、ご参考ということで。

 

 

「人工知能の核心」 読了 ~情報の整理にはちょうど良い~

リンクを貼る。

人工知能の核心 (NHK出版新書 511)

人工知能の核心 (NHK出版新書 511)

 

 

昨今なにかと話題になる人工知能

本書はNHKスペシャルの書籍化という体裁ではあるが、そのテーマを探求する主役に羽生善治名人をおいたところが、一般人の興味を惹くところ。

 

そんなわけで、一般人である小生も拝読した次第。

羽生名人が、人工知能研究の関係者に広くインタビューし、思うところを述べつつ、番組側からも解説が入るという構成。

 

内容そのものは、類書をそれなりに読んできた人、研究なりビジネスにおいて人工知能に触ったことがある人であれば、特段新しい知見はないと思う。

内容が当たり前でも、羽生名人が主役になっていると、また違った味わいがあるのでは、と思わせるところに本書の商業的な価値があるのかもしれないが、そうは言っても、バランス良く現実的な視座を提供しており、「新書」としての役割は十分に果たした良書だと思う(羽生名人が人工知能を!ということで、興味のない人が手に取るきっかけになるのであれば、なお素晴らしい貢献である)。

 

2年前の本ということで、日進月歩のこの領域において、古くなってしまっているのでは、という懸念もあったが、見る限りペッパー君が多めに取り上げられているくらいで、2019年のこの状況下では、大勢に影響はなさそうだ。

逆に言うと、本格的に普及期に入り、目新しいところで騒がれるのではなく、人工知能が当たり前の世界に突入しつつある証左、という風にも受け止められるのかもしれない。

 

軽く読んで情報を整理するには、ちょうど良い本ではなかろうか。

まぁ、ご参考ということで。

「あの戦争と日本人」 読了 ~謙虚であることの重要さ~

リンクはこちら。

あの戦争と日本人 (文春文庫)

あの戦争と日本人 (文春文庫)

 

 

8月の振り返りを今一度。

今年はこれでひと段落だろうか。

 

本書は「歴史探偵」を自称する御大が、その膨大な取材と渉猟した資料による経験値を元に、明治大正昭和の日本近代史を語るというもの。

後輩編集者に対する歴史講義、口述記録という程で編集されているようで、軽妙な語り口にスルスルと読み進んでしまう。

 

ライトな位置付けの一冊ゆえか、半藤氏も割とはっきり好き嫌いを述べているし、推測・想像を大胆に展開しておるので、異論反論の出る内容だとは思う。

ではあるものの、そこはやはり「読ませる」内容になっており、面白い。

 

「あの戦争」となっているが、日露戦争と太平洋戦争の二つの戦争を切り口に、当時の日本社会がそれぞれどのようなもので、何が違ったのかを論じ、今を生きる我々への問題提起とする、というのが本書のテーマと言えよう。

御大は、日本の近代史は日露戦争前と後で分けられるのではないか、それくらい変質してしまったのではないか、と述べる。

 

日露戦争は、欧米列強の恐ろしさを骨身に感じつつ、自ら近代日本を作り上げた政治家たちが、最後まで戦争回避の選択肢を探りつつ、幕引きまで考慮した上でギリギリ掴んだ勝利。

しかし、その勝利のお陰で「一等国入り」したという日本人の自己認識が形成され、怖さを知らない次の世代の政治家や世論の流れで、後先考えず突っ込んだのが太平洋戦争、という分析。

 

まるで創業経営者と後を継いだエリートサラリーマン経営者、みたいな話ではないか。

企業の歴史においても、サラリーマン経営者は創業経営者に勝てないと、神戸大学の三品先生は喝破しておられるが、今のビジネス環境と、大きな歴史の流れは同じなのかと感じてしまう。

 

冷静に自らの状況を理解し、適切な判断を下すリアリズムは、いつのまにか根拠のない楽観主義に置き換えられてしまうものなのかもしれない。

根拠のない楽観主義へのブレーキは、結局は謙虚さなのであろうと、考えさせられるのである。

 

日本人は進歩しているのか、何度でも胸に手を当てて考えてみたい。

まぁ、ご参考ということで。