まずはリンクを貼る。
何を隠そう小生は三品先生のファンである。
何冊読んだかわからないが、紙の本から遠ざかっていたこともあり、暫し積読になっていた一冊。
こういう積読の本というのは面白いもので、興味があるから買ったものの、その時は読まずにいて、引っ張り出して読んだそのタイミングがベストだったりする。
昨日の「絶賛試行錯誤中」というエントリーに対する一つの解にもなっていたりして(詳細は現在自分の中で煮詰めている)。
dai19761110.hatenablog.com
本書は、時系列的には前著となる「経営戦略を問い直す」(これも穴が開くほど読んだ)の続編的存在にあたり、事業を営む以上絶対に避けられない、本業の衰退からの脱出(「転地」と三品先生は呼ぶ)を、いかに成し遂げるかを、総合スーパー三社の興亡史という形で解き明かしていく。
本書にはもう一つの狙いがある。
本書全体の監修は三品先生によるものだが、執筆やその前提となる取材は、神戸大学三品ゼミのゼミ生が行っている。
当時批判的に語られることの多かった「ゆとり世代」に対して、三品先生は光明を見出しており、「ゆとり世代」のゼミ生に執筆を担当させることで、彼らのポテンシャルを世に知らしめよう、ということである。
それで、実際の本書の構成自体は、総合スーパーの興亡の明暗を分けたものは何か、直接的にはダイエーはなぜ潰れ、イオンとイトーヨーカドーは生き残ったのか、という問いの答えを、現場、本社(組織)、経営者という切り口で探っていく。
三品先生の著作に親しんだ方なら答えは明白で、それは経営者なのである。
現場の努力は、事業立地の衰退にあらがうことはできない。
経営者によって命運が決するといっても、ダイエーの中内さんが無能で、イオンの岡田さんやイトーヨーカドーの伊藤さん・鈴木さんが有能だったということでもない。
各経営者は、勿論みな超絶的に有能なのだけれど、「事業観(世界観と言ってもいい)」の違いが、経営の構えと組織の行く末を決めてしまったということなのだ。
中内さんが「安売り」と「拡大」だとすれば、岡田さんは「適応力」「アメリカへのあこがれ」「協調」という「事業観」だったように、それぞれの事業観は成長の要因にもなるし、衰退の原因にもなりうる。
個人的に考えさせられるのは、やはりイトーヨーカドーの事例である。
いま、様々な企業で新規事業が求められているが、本業の衰退を懸念したその動きは、はっきり言って、「面白くて新しいアイデアも否定はしないが、本当に欲しいのはイトーヨーカドーにおけるセブンイレブンであり、その立役者であり次世代経営者の鈴木敏文氏」なのだと感じている。
多くの人がご承知の通り、鈴木氏は鈴木氏で、厳格な「事業観」を持つ人で、それをベースに30代からセブンイレブンの事業を立ち上げ、10年以上かけてグループの屋台骨に成長させている。
多くの企業で求められているのは、結局のところ「事業観」を持つ若手の優秀な社員に、職業人生をかけて新規事業に取り組ませ、その実績を持って本体の経営に返り咲くストーリーなのだと思う。
ここ数年のトレンドであり、小生もそのように取り組んできたけれど、「リーンスタートアップ」的な考え方とはまた違う、重厚で厳しい要求こそが、今の日本企業に必要なのではないかと投げかけられているように感じた。
本書の末尾で、再び三品先生は「ゆとり世代」に言及している。
本業が衰退していく中で、今後30年以上働く若者に対して、その旧世代とは違った良さを生かしながら、新しい事業を再発明させることこそ、これからの日本企業に求められるスタンスなのではないかと投げかけている。
小生も、ある会社で、新卒一年目の社員が堂々たる新規事業提案のプレゼンをしている姿を見て、我々は結局、時間をかけて彼らを役立たずにしてはいないか、という不安を感じたことがある。
今の若者のポテンシャル、そして鈴木敏文氏が30代から時間をかけてセブンイレブンを成長させた事実を踏まえると、我々の世代の役割は、自ずと明らかなのではないだろうか。
尚、本書は我々生活者にとって身近なビジネスを題材としていることもあり、冒頭から「へー!!」の連続である(店舗の業績を決定する要因はなにか?等々。たぶん皆さんが考えている要因と全く違うはずである)。
そして、同じように見えていた総合スーパーが、経営者の「事業観」の違いからくる、戦略・戦術・戦闘の違いが明らかにされていく様は、非常に興味深いものである。
本年通じて決して忘れられない一冊となった。
是非多くの方にご一読いただきたい。
まぁ、ご参考ということで。