人間到る処青山あり

諸々よもやま話(とりあえず)

「世界システム論講義」 読了 〜世界史はこう学ぶべき〜

リンクを貼る。

 

本書は数ヶ月前にレビューを見て購入し、読もう読もうと思って積読していた一冊。

実際に読むに至った経緯は、下記の未来予測の本を読んでいて、需要が世界を変えるという認識にピンときたから。

dai19761110.hatenablog.com

 

川北氏の著作は、以前こちらを読んだことがあり、政治などの上部構造ではなく、文化や風俗、欲望(需要)から歴史を語る方法論に、強力なリアリティを感じていた。

dai19761110.hatenablog.com

 

本書は、近代500年の歴史を、各国ごとの時系列ではなく、同時代の関係性で紐解いていくところがキモ。

「関係性」というのが、「システム」と語られるゆえんである。

 

イギリス産業革命は、アフリカやカリブ海諸島を巻き込んだ奴隷貿易を含む三角貿易無しでは成立しなかったし、中心と周辺という関係性で世界を捉えた時に、当時のイギリスが周辺を抑えてしまった以上、フランスで産業革命は起こり得なかったと喝破する。

一つのエリアを時系列で追っていたのでは、永遠に得られない視座を提供してくれるし、その関係性が現代も影響を及ぼしているという事実は、今後を占う上でも重要なヒントを提供してくれる。

 

本来、歴史を学ぶ方法論と意義は、このようなアプローチにこそ存在するのでは無いだろうか?

高校時代に川北氏について近代史を学ぶことができたなら、受験はともかく物凄くいい勉強になったのでは無いかと思う。

 

ちなみに、海賊というテーマを通して、近代ヨーロッパ諸国の関係性を説明したという意味では、こちらもおすすめ。

dai19761110.hatenablog.com

 

まぁ、ご参考ということで。

「すぐに未来予測ができるようになる62の法則」 読了 〜安直な法則はもちろんあるわけないけれど〜

まずはリンク。

 

先日再読した、「確率思考の戦略論」に引用されていたこともあり、拝読した次第。

dai19761110.hatenablog.com

 

著者は長銀の元取締役。

ja.wikipedia.org

 

著者のバックグラウンドから導き出された、経済的な法則や文化論、マーケティング的なアイデアなどが幅広く語られる。

本書自体は、ビジネスにも役立つエッセーといったところだろう。

 

何らかの研究成果とまではいかないが、アカデミックな匂いがするインサイトを期待するのはお門違い。

小生も、森岡氏の本で引用されるくらいなので、どれほどのものかと期待をしてしまったところはある。

 

既知の情報や著者の個人的な見解などが「ないまぜ」になっていて、軽く読むには十分興味をそそられるのだが。

個人的になるほどと思ったのは、「文化が先、産業化が後」というような説明をする下りで、文化的な憧れがあって需要が喚起され、十分な需要が見込めるからこそ産業化が進む、という説明は、確かにそうかも、と思わされるところがある。

 

だから日本は文化産業に進む方が良い、というようなトーンが全体にあるのだが、そこはやっぱり2000年代初頭の書籍。

今の時代から睥睨すると、「うーん、当時はまだその辺に希望は残っていたよね。今からその可能性って残ってるのかなぁ…」と感じるのが正直なところ。

 

ちょっと、小学校の卒業文集を読み返すような気恥しさを感じてしまう(苦笑)。

長期の視点で物を考えてみる、という意味では、良い刺激を与えてくれると思うので、10年・20年の計で何かの企画を打ち立てていく必要がある人が、新たな視点を得るために読むのが良いのではないだろうか。

 

まぁ、ご参考ということで。

 

WHATを定義するスキル

色々なクライアントと仕事をしていて、ここ数年でWBSを引くのが多くなったなぁと思う。

一応解説のリンクを貼っておく。

 

https://tech.nikkeibp.co.jp/it/article/COLUMN/20120214/381670/

WBSというのは、プロジェクトを作業レベルに分解して、プロジェクト期間の時系列で表記したものとでも言えば良いだろうか。

 

概念は昔からあったわけだが、最近目にすることが多くなったような気がするのは、エクセルでもスプレッドシートでも、表計算ソフトの共有管理が当たり前になったから、開発ではない企画系の現場でも使われるようになった、ということなのだろうか。

正直、小生はプロマネやエンジニア経験が無いので、引き方をちゃんと習ったわけでは無い。

 

これ、仕事で使ったことがある人はわかると思うけれど、物凄く思考力が問われる。

特に新規事業開発でWBSを引くとなると、WHATを定義する力が無茶苦茶必要。

 

何をやらなきゃいけないか、抜け漏れなく定義し、出来ればその粒度を揃え、順序と階層構造を明らかにする。

これは結構出来ない人が多いので、この先ますます求められるスキルなんじゃないだろうか。

 

思うに、こういうのは場数だと思うので、ちっちゃな企画(忘年会とか)でもなんでも、引きまくったらいい。

そういえば、小生は高校生の頃、定期試験の準備で、工数積み上げて計画を立てていたのだが、ひょっとしたらそんな経験が今も生きているのではなかろうか…。

 

まぁ、ご参考ということで。

「苦しかったときの話をしようか」 読了 〜森岡作品コンプリート⑤〜

リンクはこちら。

 

日本屈指のマーケターであり、経営者と呼んで支障はないであろう森岡氏の最新刊にして、これまでとはだいぶん毛色の異なる一冊。

これから就職活動に向かう長女に宛てた、森岡氏のキャリア論とご自身の回顧録である。

 

氏のキャリア論については、これまでの書籍でも触れられてきたが、本書はその集大成といった趣。

マーケターらしい考え方ではあるが、森岡氏自身は採用も育成もかなり経験があるので、採用のプロとしての視点でもある。

 

自身の強みを把握し、どうブランディングしていくか。

世の中から求められるコンピテンシーをTCL(Thinking,Communication ,Leadership )と置いた時に、自分が強いのはどれなのか。

 

会社と結婚するのではなく、職能を磨くことを目指すべきであること。

自分が情熱を注げる対象を、一生懸命探すこと(苦手なことを無理に伸ばそうとしないこと)。

 

原理原則から、面接でのテクニカルなところまで、父親の娘に対する過剰な愛情(失礼!)が込められたメッセージが続く。

内容に関しては、まさにその通りだと思う。

 

しかし本書が読者の心を揺さぶるのは、後半部の森岡氏の回顧録部分。

本書のタイトル通り、苦しかった時の話が、等身大の姿で綴られていく。

 

流石の強烈なエピソードだが、若き日の森岡氏の苦しみは、必死に働いてきた人間であれば、必ずや共感を得られることと思う。

また、最終章の、これから社会に旅立つ長女に宛てたメッセージは、同じく娘を持つ父親として、深く感動する。

 

小生は自分の娘に対して、何を伝えるだろうか?

思わずそんなことを考えてしまう。

 

本書の後半部分だけでも読む価値はあると思うので、子を持つ親の皆さんにも、まだキャリアが確立できていない若者の皆さんにも、是非お勧めしたい。

まぁ、ご参考ということで。

 

「マーケティングとは『組織革命』である」 読了 〜森岡作品コンプリート④〜

とりあえずリンク。

 最近固め読みしている森岡作品の四冊目。

去年、森岡氏が独立した前後の書籍で、日経のビジネス誌等での連載を編集し、まとめた一冊。

 

これまで同氏の書籍を読んできた人間にとっては、それほど違和感の無い内容だと思うが、純粋にマーケティングだけではなく、組織論にまで踏み込んだ内容となっている。

前前著である、「USJを劇的に変えた、たった1つの考え方」でも述べられているが、

http://dai19761110.hatenablog.com/entry/2019/05/16/200050

そもそも彼が行ったマーケティングというのは、会社組織を顧客志向に変えていく取り組みでもあった。

 

本書では、変化を嫌う生き物である人間心理・人間行動を踏まえた上で、どのようにしたら変化する組織に変わるのか、組織人事の全体から各論までが前半で語られていく。

後半は、そういった組織の中にあって、たとえ弱い力の一個人でも、どうやったら組織を動かすことができるのか、それこそ森岡氏個人のメソッドが炸裂する。

 

おっしゃる通りだと思うし、だからこそ難易度は高いと思うし、非常に暑苦しい(笑)。

しかし、一個人でも大きな組織は動かせるのだ、という強い信念を、非常に暑苦しいトーンで語られてしまうと、思わず自分にもできるんじゃないか、やるべきなんじゃないかと、思わずにはいられない。

 

人事の専門家ではないマーケターが書いた、そういう意味では珍しい組織論であるし、卓越したサラリーマンによる仕事術の本でもある。

人事に関わる人や、いよいよ大きな仕事に取り組まねばならない若手〜中堅のビジネスパーソンには、良い刺激になる本ではないか。

 

まぁ、ご参考ということで。

 

 

仕事人間になるな

社会人になりたての頃、偉い先輩方から、「仕事人間になるな」と言われたもの。

人格の陶冶、みたいな大きな話をされたように記憶しているが、シニカルで危機感だけは強かった小生は、そんなの成功した人間のバイアスに満ちた振り返りであって、生きるのに必死な我々はバリバリ働いてエンプロイアビリティを上げるべし、と思っていた(その割に、合気道だけは捨てなかったのだけれど)。

 

まぁ、社会人生活も20年を超えて、「仕事人間になるな」という言葉の意味が、少しわかってきたような気がする。

一つは、よく言われる事でもあるが、本気で趣味に打ち込める人は仕事もできる、というもの。

 

時間や資金、体力も限られる中で、本気で何かに取り組むことは、高度な戦略と決断力に裏打ちされる。

仕事に役立てるまでもう一息だ。

 

それから、仕事以外が無い人というのは、価値観や意思決定ロジックを仕事以外に持たないということになるので、そういう人が集まる組織というのは、本当の意味での多様性が維持されない。

多様性がない組織からはイノベーションは生まれない。

 

また、多様性とも関わるかもしれないが、仕事のことばかり考えていると、仕事の意味や価値を客観的に見ることが難しくなり、仕事自体が自己目的化して、一番大事な顧客視点の喪失につながるんじゃないか。

そうなると、仕事も上手くいかなくなって、面白くもなくなる負のスパイラル。

 

あとは、睡眠が足りなくなるくらい働いてしまうと、色々な場面で判断を誤ると思う。

良い意思決定は良いフィジカルコンディションから、である。

 

ということで、仕事人間の弊害は明らかになったが(?)、では若き日のへそ曲がりの小生に伝えるとしたら、なんだろうと考える。

うん、”Work hard, Play hard”かな。

 

普通だ(笑)。

まぁ、ご参考ということで。

 

「確率思考の戦略論」 再読 〜森岡作品コンプリート③〜

リンクを貼っておく。

 

 本書を最初に読んだのは2年前の4月。

森岡作品コンプリートということで、再読した次第。

 

2016年頃に発表された森岡氏の書籍、記事の中で、理論編の集大成という一冊である。

マーケティングや戦略のロジックは、おそらく古巣のP&G社のそれがベースだろう(共著の今西氏も同社OB)が、それを数学のロジックで展開していくのが森岡流。

 

まとめると、戦略とは、プレファレンス、認知、配荷の3点を向上させるために、どのように資源配分するか、である。

プレファレンスとは、ユーザーにとっての当該ブランドの相対的好意度と言って良い。

 

そしてプレファレンスは、ブランドエクイティ、スペック、価格に支配されてているので、それぞれをどのように顧客向けにアジャストしていくか、という議論が、P&G、USJといった企業での事例を引き合いに、数学的に解説されていく。

初見の際は、このロジカルな構造の美しさに溜息を漏らしたものだが、再読してもやはり印象は変わらない(数学だからロジカルなのは当たり前なんだけれどね)。

 

本書は、流石マーケターの森岡氏が書いただけあって、我々文系ビジネスパーソンにも配慮された二部構成で、複雑な数式は全て二部に寄せてあり、読み進めるのに支障は無い。

生々しい事例をふむふむと読みながら、「あの会社におけるプレファレンスは?」「こっちの会社のブランドエクイティは?」なんて、色々考えを巡らせるのも楽しいではないか。

 

森岡氏の他の著作は、もう少し一般的なフレームワークで語られることが多いので、特にディープな考え方を見てみたい人にオススメである。

どうしても、消費財っぽい考え方だな、とは思うけれどもね。

 

まぁ、ご参考ということで。