人間到る処青山あり

諸々よもやま話(とりあえず)

「現代思想のパフォーマンス」 読了 〜学問は役に立つべきか〜

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現代思想のパフォーマンス (光文社新書)

現代思想のパフォーマンス (光文社新書)

 

 

現代思想に携わる著名学者による共著。

著者人がお好きな方はフィットするに違いない。

 

フーコーとか、20世紀にインパクトを与えた思想家たちの理論の概略を、章ごとに概観しつつ、同じコンセプトが反映されている身近なコンテンツ(映画・小説等)を引き合いに、更に解説を加えていくという趣向である。

身近なコンテンツを題材にすることで、一見縁遠い現代思想を、読者にとって実感のあるものにしようという試みはとても素晴らしいと思う。

 

身近なコンテンツといっても、ほとんどの人にとって身近といえるのは映画「エイリアン」くらいで、カミュ「異邦人」は読んでいない人の方が多いんじゃないかと思う。

が、現代思想が何を課題とし、どのように格闘してきたかを知る意味では、とても良い解説である。

 

こういった試みは、抽象的な理論が、一般の人にとっても意味がある、場合によっては役に立つものなのだ、ということを伝えたいということが前提にあるのだろうが、本当にそういうことをする必要はあるのだろうかと、ふと思う。

小生は、武道なんかに取り組んではや四半世紀が経過するが、現代社会で江戸期の知恵がベースとなった武術が役に立つことは、ほぼ無い。

 

役に立つこともあるかもしれないけれど、本当に戦いの場面で活かせるかどうかは、なんとも言えないのである。

では、なぜそんなことを続けるのか?

 

一つには、「プロセスからの学び」ということができると思う。

詳しくはこちらもご参照されたし。

dai19761110.hatenablog.com

 

人生、色々と考えていきたいものである。

まぁ、ご参考ということで。

 

 

 

 

ボトムやミドルも逃げていないか?

大企業の新規事業あるあるなんだけど。

例えばフィジビリティスタディで100万円でランディングページ作ってユーザーの反応が見たいです、なんて希望があったりする。

 

100万円だったら課長決済でいけますよね?って話が、「いや、うちの会社の名前が出るんだったら、ウエに上げなきゃいけないんじゃないか?」みたいな話になり、結局100万円が取締役会に諮られた挙句、「あーでもないこーでもない」で結局「時期尚早」みたいな感じでNGになる、なんてことがある。

起案者からすれば、「決裁権ってなんなんだ!?」という感じで、バカらしくてやっていられなくなる。

 

ルールがない事態にどう対応するか、という話なので、課長判断で実行してしまうということも当然考えられる。

もし後でお咎めがあったとしても、「お前なぁ…!」くらいだから、そういう課長であるべきだ、ということが言いたいわけではない(そんな課長が居たら面白いけど)。

 

「ウエに上げよう」という判断そのものが、組織のミドルとしての意思決定なのだから、それは多分正しい。

しかし組織というのは、短期的には何もしないことが最もリスクが低いので、明らかなメリットが無いもの以外は「NG」というように出来ていると思うのだ。

 

つまり、下から「(絶対に)通す」という意志がなければ、新しい試みの決裁は、構造として通らない。

裏を返せば、「ちょっとよくわからないけど…」「責任持って意見を通すのが怖いなぁ」という本音がある中で、「ウエ」に判断を仰いでしまえば、無責任の連鎖となり、組織の作用として「何もしない」という結論になるのだ。

 

居酒屋談義では、マネジメントの意思決定を非難する向きは多いし、言っていることに共感はできるけれど、組織を動かすというのは、それも未知の領域に導くのは、安直なパワーでは出来ないのよね、と本当に思う今日この頃。

自戒を込めて。

 

まぁ、ご参考ということで。

 

 

 

「世界の経営学者はいま何を考えているのか」 読了 〜背筋も凍る面白さ〜

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世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア

世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア

 

 

それこそ若い頃も今も、経営学に類する書籍のたぐいは人より読んできたほうだと思っている。

意識高い系でしたから、ほんとに。

 

とはいえ最新状況は追ってないなぁという感覚も有り、タイトルに惹かれて読んだ次第。

読んで愕然、一言で言って、「ヤバい・・・」であった。

 

何が「ヤバい」のか?

自分の知識も含め、日本で流通している経営学系の議論は、20〜30年前の状況で止まっているのではないか、と感じたからだ。

 

ドラッカー、ポーター、バーニーあたりがいけないというわけではないし(それは本書にも書いてある)、クリステンセンももちろんいいのだけれど、日本の経営者、ビジネスパーソンにとっての「経営学者」のイメージはその辺止まりではないか?

しかし、世界の経営学会においては、これらの重鎮をベースに、数多の才能豊かな研究者が、20〜30年かけて、「更にその先」のフロンティアを開拓してきているのだ。

 

本書を読む限り、戦略、組織、意思決定、イノベーション等々、昨今毎日のように話題になっているテーマは、とっくに議論され尽くしていて、ある程度の答えは出ているように感じる(しかも本書は6年前の本なので、実際はもっと先を行っているはず)。

先日読んだ、山口周氏の本でも、「もはや結論は出ている」というトーンで書かれており、「やっぱりそういうことか」と改めて納得した。

dai19761110.hatenablog.com

 

もちろん、学問としての経営学はその性質上、理論の実証が難しく「ある程度の答えは出ている」としても、それが本当に正しいかは議論の余地はあるし、それは本書の最終章付近で、経営学の課題と展望という意味合いで言及されている。

しかし、日本社会の長期停滞を嘆く声や、犯人探しの議論はずっと続いているのだが、本書を読んで、思うのだ。

 

「単に、勉強や努力を怠けていただけ、なのではないか?」と。

こわいこわい、今日も頑張ろう。

 

まぁ、ご参考ということで。

 

 

 

「欲望の美術史」 読了 〜人の心と教養と〜

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〈オールカラー版〉欲望の美術史 (光文社新書)

〈オールカラー版〉欲望の美術史 (光文社新書)

 

 

やっぱこれからは教養だよね、アートだよね、ということで手にした一冊。

雑誌等に連載された美術エッセイを一冊の書籍にまとめたものであり、各章(毎回の連載)で美術が制作された背景を「欲望」として紐解いていく構成なので、非常にとっつきやすい。

 

個人的に「なるほど、へー」だったのは、芸術家が純粋に芸術として制作された作品というのは実は少なく(ごく近代の話)、誰でも知っている名作でも、それぞれに制作背景があるものだ、ということ。

もちろん宗教画は教義の普及という背景が有り、ルネサンス期の作品はそれぞれのパトロンの権勢を誇るという背景が有り、一見単なる風景画だったとしても、その国の原風景を描くことでナショナリズムを喚起するという目的が仕込まれていたりするのだそうだ。

 

そういった芸術表現の鑑賞を通じて、その国々、その折々の歴史、社会、人間心理を理解するということが、芸術を嗜むことなのだな、ということを、本書は教えてくれる。

取り上げられる作品自体は、誰でも知っているというものというより、少し珍しいものを、洋の東西や権威的/大衆的問わず、広く紹介してくれているところが、また面白い。

 

教養・アート系書籍を手にした一発目から、なかなか奥行きのあるところを実感させられる。

これはなかなかに楽しそうな世界である。

 

折を見て、このジャンルを掘り下げてみたいと思う次第。

まぁ、ご参考ということで。

 

 

新規事業にノウハウはあるのか?

新規事業の支援(コンサルとはあえて言わない)を生業として、もう何年も経つが、最近ますます悩みが深い。

過去何度も書いたけれど、新規事業というのはそもそも定義からして難しい。

 

その事業を通じて、どんな未来を目指すのかも、あやふや。

結局は小さく始めて試行錯誤を繰り返すしか、立ち上げの方法論は無いのだけど、それが果たして屋台骨となるレベルまで成長するかは謎。

 

全く新しい事業なら間違いなく確かなノウハウは存在しないし、どこかから援用するビジネスモデルだったとしても、そのノウハウが今のタイミング、その会社、この競争環境でハマるかはわからない。

事業を立ち上げる土台である会社の力学、経営資源、価値観などは、それこそ千差万別で、一般化は難しいところもある。

 

そうなると、新規事業にノウハウがあるのか、という疑問が湧くのである。

デジタル大辞泉では、ノウハウを

1 ある専門的な技術やその蓄積のこと。「仕事のノウハウをおぼえる」
2 技術競争の有力な手段となり得る情報・経験。また、それらを秘密にしておくこと。

としている。

 

https://kotobank.jp/word/%E3%83%8E%E3%82%A6%E3%83%8F%E3%82%A6-179023

定義を読む限りでは、役に立つかはハッキリしない過去の経験を、果たしてノウハウと呼んで良いのか、やや心許ない感じがするのである。

 

転職活動のノウハウはあるが、その人の職業人生についてのノウハウは存在しない。

異性をデートに誘うノウハウはあるが(大抵イマイチだけど)、誰と人生を共にすべきかのノウハウはない。

 

魅力的な事業計画を書くノウハウはあるけれど、その会社が取り組むべき新規事業のノウハウは…?

小生が新規事業開発のコンサルティングとハッキリ言いにくい所は、この辺にあるのだと思う。

 

「秘中の秘」みたいなノウハウがあって、それを伝授して差し上げるのであれば良いのだが、結局は一社一社、一人一人と共に考え、試行錯誤するだけ。

しいて言えば、いろんな会社といろんな取り組みをした場数・経験があるというところ。

 

その場数・経験を持って、日々クライアントと「ヨーイドン」で走り出す。

それがまた最高に楽しいので、お声がかかる限り走り続けているけれど、クライアントにとっても新規事業はキツい取り組みだと思う。

 

いくら走ったところで、人生に答えがないのと同様、新規事業にも答えはないのだから。

だけど、ちゃんと蓄積をすれば、間違いなく人も組織も成長する。

 

結局の所、その成長の可能性を信じることができるか。

新規事業にノウハウがあるのだとすれば、それは「信じること」なのかもしれない。

 

ってポエムか!

まぁ、ご参考ということで。

「ぶしゅ よなよなエールがお世話になります」 読了

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ぷしゅ よなよなエールがお世話になります

ぷしゅ よなよなエールがお世話になります

 

 

皆さんは「よなよなエール」というクラフトビールをご存知だろうか?

ビール大手4社以外で、コンビニなどで安定して購入できる唯一の銘柄だと思う。

 

醸造元は、ヤッホーブルーイングという、星野リゾートのグループである。

本書は、ヤッホーブルーイングの復活から成長への道筋と、井出社長自身の成長物語である。

 

会社の創業期、浮き沈み、復活と成長。

その中での苦しみや喜びは、経営の全てがあると言っても過言ではない。

 

井出社長自身の成長物語についても、一介のダメ社員が(失礼!)、苦難を経ていかに経営者に「なる」のか、ビジネスパーソンの成長ストーリーのかなりの部分がここにある。

そして今までにない価値を提供したいという星野氏他の強い思い、必死の努力が実を結ぶストーリーは、ストーリーとして良くできているし(実話だけれど)、よなよなエールも成長を支えた楽天市場(当社の主戦場)もファンになってしまいそうである。

 

是非クリント・イーストウッドに監督をやってもらって映画化してほしい(笑)。

まぁ、ご参考ということで。

 

「世界で最もイノベーティブな組織の作り方」 読了

リンクはこちら。

世界で最もイノベーティブな組織の作り方 (光文社新書)

世界で最もイノベーティブな組織の作り方 (光文社新書)

 

 

はい、Kindle Unlimitedありがとうございます。

山口氏の著作が続く。

 

本書は山口氏の組織人事コンサルティングという本職の知見が散りばめられた、タイトルどおりの一冊。

新規事業に携わる中で、やはり企業における人と組織の問題は避けて通れないのではないか、と考えていたこともあり、カラカラの喉に染み透る水のように、スッと読み終えてしまった。

dai19761110.hatenablog.com

 

個人としては世界的な活躍をする人材を排出しているのに、なぜ組織になるとダメなのか、という日本の課題から出発している。

多くの歴史や、ヘイグループとしての調査研究をふまえてみても、結局は

・組織としての風通しの良さ

・「若者・よそ者・馬鹿者」

・課題解決型ではなく好奇心駆動型人材がイノベーションを起こす

・多人数で目利きをし、最後はリーダーの決断力

が重要、ということになる。

 

なんだ、日本企業が全部苦手なことじゃないか、という気がしないでもないが(苦笑)。

とはいえ、小生個人としては、試行錯誤を少し前進させるヒントを獲得できたと思っているので、これ以上無い賛辞と感謝を著者に伝えたい。

 

イノベーションにまつわる制度設計や、人事に関わる方は、ぜひご一読いただきたい。

まぁ、ご参考ということで。