こんな本を読む。
なんということはない、友人が著者なんですけどね。
イノベーションの種を生むためにSF、サイエンスフィクションの知見を活用しよう、という趣旨。
優れたSF作品は、人間や社会の本質が根底に描かれており、そこに特定のシミュレーションを加えたらどうなるか、という思考実験のエンターテイメントなので、本書の趣旨には大いに共感するもの。
冒頭がSF思考の意義、中盤がその思考を引き出すワークショップの手引き、後半が実際のワークショップでのアウトプットを下敷きにした数本のSF小説。
そう、本書ではアウトプットの総仕上げとしてプロに小説として仕上げて貰うことを推奨している。
正直、普通の会社ではハードルが高いような気がするが、いやいや、トライしてみる価値があると感じさせる仕上がりである。
作品化にあたってのプロの先生からの質問も紹介されているのだが、例えば「舞台となる時代の人口推計と各地域ごとの人口格差はどうなっているか」など、もちろん創作には必要だけれど、ビジネス構想に関わる本質的なやりとりである。
そしてそれぞれのSF作品が面白い。
日本にも優れた書き手がたくさんいるんだな、というのは普通に喜ばしいとして、やはり構想された未来の説得力が違う。
新しい技術が具体的にどんなもので、それを当たり前とする未来の人はどんな生活をしているのか、そして、ここが本書の重要な示唆なのだが、そんな未来で生き辛さを感じている人はどんな人なのか、どんな悩みがあるのかも描かれている。
突飛なアイデアの具体化だけでなく、そのアイデアがもたらすデメリット、そしてそれを解消するビジネスチャンスが、目を閉じれば映像が浮かぶように伝わってくる。
さすが、プロだなぁ…。
新規事業の伴走で突飛なアイデアは死ぬ程見たし、考えもしたけれど、その具体化となると、素人のアウトプットは聞いているこちらが恥ずかしくなるようなレベルなのである。
それをここまでの「作品」に仕上げるとは。
いやはや、凄いものである。
まぁ、ご参考ということで。