人間到る処青山あり

諸々よもやま話(とりあえず)

仕事の価値は遥か遠くにあることも

こんな本を読む。

 

Kindle日替りセールでレビューも高かったので購入。

一応法学部で刑法専攻でしたし。

 

表紙の打ち出しとタイトルから、「美人弁護士が弱者のために日々頑張ってます!」みたいな内容かと思ったのだが、いやいや全然そんなことはなく、本年屈指の面白さのノンフィクションであった。

国選弁護人として、ある窃盗団の主犯を担当した著者が、依頼人のちょっとした疑問をきっかけに、弁護団を組成して令状なしのGPSを利用した警察捜査の違法性を争い、最高裁大法廷で違憲判断を勝ち取るまでの、ドラマチックなストーリー。

 

小生も知らなかったのだが、刑事事件で最高裁大法廷というのは、弁護士人生で一度もないという人が殆ど、というようなレアな展開らしい。

ベテラン・経験豊富とは言えない著者ら弁護団が、悪戦苦闘しながら必死の思いで立ち向かう姿は、プロジェクトXのようである。

 

痛快ではあるが、警察の現場にも検察にも弁護士にも大学の同期がいる小生としては、検察や警察をやり込めるサクセスストーリーに乗り切れないのは致し方ないところ(苦笑)。

法学部出身じゃない人には、少々難しいかもしれないが、個人的には非常に楽しめた。

 

さて、弁護団が本件事案の違法性を問う構成も、著者が刑事弁護人として日々仕事に取り組む動機も実は同じ。

ちょっとした行き過ぎ、弱い立場の人に付け入るような個人の権利侵害を許してしまうと、それが徐々に拡大して、結局は自分たちが暮らしにくい社会を生み出してしまうからだ。

 

目の前の被疑者はどうしようも無い悪党かもしれない。

そんな人間をなぜ弁護するのかといえば、目の前のその人間を弁護する必要もあるのだが、その活動を通じて良い社会を守るという、遥か遠くであるが、とても重要な価値が存在するのだ。

 

仕事のやり甲斐や喜びは、すぐ目の前に転がっているとは限らない。

難しいかもしれないが、その仕事の本当の価値を信じて、日々前向きな努力に取り組みたいもの、そんな風に感じた。

 

まぁ、ご参考ということで。