武門に身を置くものとして、一度は読んでおかねばと手に取る。
先生は生前「武道と武士道は違うからね」とおっしゃっていて、特に「武士道とは死ぬことと見つけたり」で有名な葉隠を引き合いに、「武士道は言ってみればサラリーマン道、勤め人の心得」と解説されていた。
果たして読んでみると、先生のおっしゃる通り。
それも筋金入りの、今であればスーパーブラックな社畜論のように感じられる。
それは本書冒頭に著者による葉隠の来歴解説があり、それを読んだ影響もあると思う。
原著の口述者である山本常朝という人は、才覚に恵まれてそれなりの地位に登用されたが、紆余曲折あって40代で隠居生活に入っていて、なんともサラリーマンを真っ当できなかった鬱屈した思いを感じるのである。
命を賭けて主君に奉公し、そのために日々努力し続け、人間としての欲や楽しみは一切認めないかのようなファナティックなスタンス。
「死ぬことと見つけたり」も、死ぬ気でやればなんとかなるし、その覚悟がある者を主君は取り立てるのである、という感じである。
「オーナーが絶対権力を持つ会社の古参幹部によるありがたいお言葉」に近い印象を受けたし、こんな感じで十数巻にわたって綴られているのだとすると、ちょっとどうかしていると思うのだが。
確かにこういう価値観が受け入れられた時代はあったのだろうと思うが、当時の武士がみんな同じ考えだったとも思えないし、後の歴史を知る立場としては、組織が理不尽を個人に強要する思想的背景の一部を本書が担ったのであろうことを想起してしまい、あまり良い気分にはならない。
うん、こういう考え方は、我々の世代がそれを体感する最後の世代ということでいいんじゃないかな。
まぁ、ご参考ということで。