人間の本質を知り思索のきっかけとなる読書、ということでSFの名作にちょっかいを出していたが、そのテーマで読書好きから必ず挙がるのが歴史物である。
ということで積読を引っ張り出す。
井上靖はいつぶりだろう、格闘技マニアの間では高専柔道経験者として有名なわけだが(?)、高校の教科書以来かもしれない。
江戸時代に乗船していた船が漂流し、当時の帝政ロシアに滞在・帰国した大黒屋光太夫の物語。
とても長い本なのだが、本当に驚かされるのは著者の取材量であった。
丹念に資料を読み漁り、現地にも赴き、インプットにインプットを重ねて物語を編んでいる。
大黒屋光太夫はかなり記録を残しているとはいえ、物語の瞬間瞬間の心情まで記録しているわけではないから、そういった心情は創作だし、当時の江戸幕府の描写は現代日本批判のようでもあり、そこも創作なんだと思うのだが、実際にそうだったとしか思えないほどの説得力を持っている。
読み込んで読み込んで、考えて考えて、著者にとっては「こうだったに違いない」と考えられた「真実」、そんな感じがする。
浅いインプットで仮説をいくつも立てて、前に進めながら絞り込んでいく、そんなやり方もあるけれど、圧倒的なインプットで考え抜く凄み。
見習いたいものである。
まぁ、ご参考ということで。