人間到る処青山あり

諸々よもやま話(とりあえず)

客を選ぶ

小生はこの十年以上、同じ美容師さんに髪を切ってもらっている。

その間、他所で切ってもらったのは、スケジュールの都合で一回だけだったと思う。

 

表参道の駅から十分くらいの立地の店で、もう十数年、ほぼ一人で経営している。

お世話になったきっかけは、仕事の関係で紹介を受け、「是非一度カットに来てくださいよ〜」「ホントですか?ほんとに行っちゃいますよ〜」「えぇ是非是非〜」みたいな感じで通い始め、仕事もプライベートもいろいろあったが、かれこれ十年を超えるお付き合いになったわけだ。

 

最近になって何気なく、「そもそもなんでこの場所でお店を始めようと思ったんですか?」という投げかけをしたのだが、「コンサルタント」などという肩書きの小生が、自らを恥ずかしく思うくらいの、経営の本質が語られていくことになり、深く感銘を受けた次第。

美容師さん曰く、「何処かの住宅街で、オバちゃんの愚痴や世間話に相槌を打ちながら、髪を切ってお金をもらうことは全然できたと思うんですよね〜。でも私は自分の技術とセンスで勝負したかったし、それを認めてくれるお客さんと、良い仕事がしたかったんです。だからそういうお客さんが居る、この場所になっちゃったんですよね〜」とのこと。

 

なんて正しい戦略なんだと、その時点で感動である。

続けて出て来た言葉に、小生は衝撃を受ける。

 

「こんな小さなお店だから、紹介のお客さんしか来ないんですよ。でも、親しいお客さんの紹介でも、最初の電話で『ところでお幾らなんでしょうか?』って聞いて来る人は、お断りしてるんです。わかっている人は、こんな場所でこんなことやっていれば、大体幾らくらいかなんてわかるでしょ?お金の話をして来る人っていうのは、結局高いか安いかでしかでしか判断しない人なんですよ〜。だから、わかっている人に、最高のサービスを提供して、思っていたよりも安いお金を提示する、それが喜んでもらえるし、正しいあり方だと思うんです」と。

ぐうの音も出ない。

 

小生も初めて伺う際、「表参道で一人でやっている孤高のプロか…。一万は超えるだろうけど、二万はいかないだろう…。でも念のため財布には十万入れておこう」ってな感じだった。

会計の際、実際は近所の美容室と全く変わらない金額提示で、「えっ!!こんなんじゃ申し訳ないですよ!」「いやいや良いんですよ〜、〇〇さんのご紹介ですし〜」ということになり、結局十年リピートして今に至るわけだ。

 

そのお話を聞き、なるほどそういうことだったのか、と深く納得したのである。

客を選ぶことで、良いサービスを提供することができ、客も満足し、こちらも長いお付き合いを継続することができる。

 

本当の意味でのウィンーウィンの関係がそこにある。

なかなかできることではあるまい。

 

まぁ、ご参考ということで。