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8月の振り返りを今一度。
今年はこれでひと段落だろうか。
本書は「歴史探偵」を自称する御大が、その膨大な取材と渉猟した資料による経験値を元に、明治大正昭和の日本近代史を語るというもの。
後輩編集者に対する歴史講義、口述記録という程で編集されているようで、軽妙な語り口にスルスルと読み進んでしまう。
ライトな位置付けの一冊ゆえか、半藤氏も割とはっきり好き嫌いを述べているし、推測・想像を大胆に展開しておるので、異論反論の出る内容だとは思う。
ではあるものの、そこはやはり「読ませる」内容になっており、面白い。
「あの戦争」となっているが、日露戦争と太平洋戦争の二つの戦争を切り口に、当時の日本社会がそれぞれどのようなもので、何が違ったのかを論じ、今を生きる我々への問題提起とする、というのが本書のテーマと言えよう。
御大は、日本の近代史は日露戦争前と後で分けられるのではないか、それくらい変質してしまったのではないか、と述べる。
日露戦争は、欧米列強の恐ろしさを骨身に感じつつ、自ら近代日本を作り上げた政治家たちが、最後まで戦争回避の選択肢を探りつつ、幕引きまで考慮した上でギリギリ掴んだ勝利。
しかし、その勝利のお陰で「一等国入り」したという日本人の自己認識が形成され、怖さを知らない次の世代の政治家や世論の流れで、後先考えず突っ込んだのが太平洋戦争、という分析。
まるで創業経営者と後を継いだエリートサラリーマン経営者、みたいな話ではないか。
企業の歴史においても、サラリーマン経営者は創業経営者に勝てないと、神戸大学の三品先生は喝破しておられるが、今のビジネス環境と、大きな歴史の流れは同じなのかと感じてしまう。
冷静に自らの状況を理解し、適切な判断を下すリアリズムは、いつのまにか根拠のない楽観主義に置き換えられてしまうものなのかもしれない。
根拠のない楽観主義へのブレーキは、結局は謙虚さなのであろうと、考えさせられるのである。
日本人は進歩しているのか、何度でも胸に手を当てて考えてみたい。
まぁ、ご参考ということで。