人間到る処青山あり

諸々よもやま話(とりあえず)

「捨てられる銀行3 未来の金融」 読了 〜「金融の未来」ではない〜

リンクを貼っておく。

 

金融出身で新規事業開発に携わる立場としては、読まないわけにいかない。

ソーシャル上で知人が感想をシェアしていたのも、手にしたキッカケになっている。

 

共同通信記者で、長く金融業界を担当していた著者によるシリーズ三作目(ちなみに前の二作は読んでいない)。

主に地域金融機関の話題が中心なのだが、最近話題になった新しい取り組み(飛騨信用金庫のクラウドファンディング・さるぼぼコインとか)や、問題が噴出した事例(スルガ銀行商工中金の不正)を取り上げ、これまでの問題と、来るべき時代の変化に如何に対応するかを論ずる、という内容である。

 

感想を一言で述べれば、「そういう方法もあるにはあるけれど、根本的な問題解決にはならないだろう」という感じ。

「金融の未来」ではない、と述べたのはそういうことである。

 

不良債権の早期処理を前提とした金融検査マニュアルと、硬直化された運用を是正すべき、という主張は、その通りだと首肯する。

続く、これからは「共感経済」なのだから、地域に根ざして共感の広がりを作る金融を、という提言は、流石に甘い考えなのではないかと感じた。

 

意味がないとは言わないが、理念で救えるほど地域経済、地域金融機関が置かれている状況は甘くないはず。

銀行業というのは、そもそも資金需要がなければ融資は出来ない。

 

住宅ローン・アパートローンに代表される不動産担保融資に進出したのも、リテールの運用商品で荒稼ぎしようとしているのも、マーケットでの債券運用でなんとかしているのも、結局法人の資金需要がなくなってしまったから、そちらに手を出さざるを得なくなった、というのが実態のはずである(そういう意味では、バブル前で既に銀行の役割は一度終わっている)。

著者は「(地域・企業を)育てる金融」と提唱するが、本質的に金融機関は事業のことを理解できないので、情報の非対称性がある中でリスクを取るためには、よほど利鞘が稼げるか、やっぱり担保を確保するしかないのであり、育てるも何もない。

 

他にも色々と申し上げたいことはあるのだが、本書についてはこの辺にしておく。

心理学や組織論の聞き齧りでページを重ねるくらいであれば、手触りのある実態情報をもう少し積み上げた編集にした方が、読み応えもあったし、著者の手腕が活きたのではないかと感じる一冊。

 

まぁ、ご参考ということで。