人間到る処青山あり

諸々よもやま話(とりあえず)

「エベレストを越えて」 読了 〜情熱の源泉とは〜

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エベレストを越えて (文春文庫 (178‐5))

エベレストを越えて (文春文庫 (178‐5))

 

 

先日のこちらのリンクで述べたとおり、

dai19761110.hatenablog.com

イノベーションには、本人が夢中になれるほどのモチベーションが重要だと考えている。

そのモチベーションが極限まで求められるのが登山家かもしれないと思いつつ、評価も非常に高かったので、読んでみた次第。

 

植村直己氏は大変有名なので、特に説明はいらないと思うが、本書は、氏によるエベレスト初登頂の前後と、十年後の再チャレンジの手記である。

克明な記録と、移りゆく心象、作品としてとても読ませる一冊。

 

モチベーションが如何に育まれるのか、なんていうことが掴めたらなと思ったのだが、本書に登場する植村氏は既に結構な冒険をこなしたあとで、その観点でいうと、もっと若い頃の書籍をあたるべきだったのかもしれない(表紙の違いがわからない・・・(苦笑))。

新装版 青春を山に賭けて (文春文庫)

新装版 青春を山に賭けて (文春文庫)

 

とはいえ興味深いなと思ったのは、ひと冒険終えて、次のステップを探しあぐねていた植村氏をエベレストに誘うのは、信頼する先輩からの声掛け。

植村氏は前後を考えずに快諾し、エベレスト行きが決まる。

 

最初は調査登山と渉外(要はロジスティクス業務)なのだけれど、登山隊に加わるうちに、だんだん自分が・・・となって、最終的にはアタックをするメンバーに選ばれるという流れ。

きっかけは外から→迷わず掴みに行く→努力しているうちに本気になる→本気になっているうちに誰にも負けなくなる、みたいな、植村氏といえども成長譚の王道パターンを踏んでいっているのかもしれない。

 

しかし、このレベルの登山はやっぱり凄まじくて、少年ジャンプ的な「努力・友情・勝利」では、如何ともし難い感じである(苦笑)。

植村氏よりも実績と能力があると思われるライバルたちでも、5000メートル、6000メートルと登っていくうちに脱落していくのだが、これはもう本人の努力不足とかではなく、遺伝子レベルで適性があるかどうかが試されるのでは、と思う。

 

だからこそ面白いのであり、またチャレンジしようという情熱が燃やせるのかもしれないけれども。

ちなみに、エベレスト初登頂は今から50年近く前なのだが、同じタイミングでスキーのエベレスト滑降にチャレンジするということで登場する三浦雄一郎氏、今も現役だったりして、やっぱり遺伝子レベルでバケモノ(褒め言葉)だと思ったりもする・・・。

 

なお、初登頂から10年後、隊長として再度アタックする手記も記載されているのだが、これがまた、いち担当者から新任マネジャーと立場を変えて仕事に取り組む姿と思えて興味深い。

がむしゃらに結果を追求していれば良かった立場から、思い悩む植村氏の姿に共感をおぼえるのである。

 

広くビジネスパーソンにおすすめ。

まぁ、ご参考ということで。

 

 

 

 

 

”プラットフォームビジネス”に気をつけろ

仕事柄、結構多くの事業計画書を読む。

その中で良くあるのが、「プラットフォームビジネス」を展開し、顧客を「囲い込む」的な表現である。

 

そういったことができれば素晴らしいし、そういう表現を記載したほうが「通る」んだろうけれど、小生としてはそういう表現を目にした瞬間に、警戒レベルを上げる。

ほんとにこんな事業、成り立つのかなぁ、と。

 

というのは、まずもって「プラットフォーム」を使いたい顧客も、「囲い込まれたい」顧客も、存在しないと思っているからである。

プラットフォームを展開して顧客を囲い込もうとする事業計画書に、顧客視点が存在しているのか、強く疑問に感じるし、顧客視点が存在しない事業計画は絶対に成立しない。

 

「プラットフォームビジネス」といえば、例えばAmazonがそうかもしれないが、別にAmazonを使いたいという顧客ニーズは存在しなくて、欲しいものを安く早く便利に買いたいというニーズが存在するだけで、それが満たせるのならば別にAmazonでなくても良い。

実際Amazonしか使わない人間は存在しないだろう。

 

そういう意味では、Amazonに囲い込まれたい人も居ないわけで、結果的にAmazonはプラットフォームになったけれど、一つ一つの顧客ニーズに徹底的に向き合ってきたから、かろうじてプラットフォーム的に顧客をつなぎとめられているだけに過ぎないと思う。

言い方を変えれば、顧客は便利だからそのプラットフォームを利用しているだけで、もっと便利なものが出れば簡単に乗り換えてしまい、「囲い込まれている」わけではないということだ。

 

また、強固なプラットフォームといえば、リクナビを筆頭に、リクルートグループが得意とするマッチングモデルと言われるプラットフォームもある。

これは海外では”Two Side Platform”と呼ぶらしい(uberAirbnbもそうだ)。

 

”Two Side Platform”はとても素晴らしいビジネスなのだが、難点が一つある。

それは、立ち上げのパワーが物凄くかかることだ。

 

売り手と買い手を同時に掻き集めなければマッチングは成立しないし、成約率も実はビックリするほど低いことが多いので、膨大な「積み上げ」が必要になる。

そうなると、先行投資の営業コストが巨額になりやすく、失礼な言い方だが常識的な判断では実行出来ない(得意としたリクルートですら、上場会社となった今では難しいのではないか)。

 

そんな難易度を織り込んだ事業計画が、会社の決裁を得られるとも思えないので、やっぱり警戒レベルは上がってしまう。

なので、企画側として望むのは理解できるのだが、「プラットフォームビジネス」は危険なのである。

 

まぁ、ご参考ということで。

 

仕事を好きになるには

「努力は夢中に勝てない」という言葉は、これまでなんども言及している。

「サラリーマン経営者は創業経営者に勝てない」という話と基本的に同義だと思っているのだが、好きでもない仕事を頑張ってこなしているうちは、残念ながら大したパフォーマンスは出ないのである。

 

毎期のMBO自己啓発として「仕事に関連する書籍を年間10冊読む」みたいな目標設定を見ることがあるのだが、こちとら100冊以上読んでいるわけです。

小生からすれば、10冊読めるかどうかという人を、自分の10分の1しか努力していない、とは思ったりはしない。

 

読書が好きかと言われると、必要性から読んでいることもあり、なんとも言えないのだが、少なくとも100冊読む努力はしていない。

なので、本を読むことが努力目標、頑張って読むもの、という人にとっては、まぁ10冊読むのも大変だろうね、と思うくらいである。

 

「努力は夢中に勝てない」のまさに実例だと思うのだが、では夢中になれるくらい好きになるには、どうしたらいいのか?

これ、物凄く単純だが、ある程度上手くならないと、好きにはなれないと思う。

 

少なくともある程度の領域が人並みに出来るようになってはじめて、「もっと極めたい」「もっと広げたい」「全然違うやり方にチャレンジしてみたい」「この分野とは直接繋がらないが、自分はこういうことに夢中になれるのだな」なんて思えるんじゃないか。

人並みに出来るようになったけれども、「やっぱり違うな」と思うのであれば、別の道に進めば良い。

 

この議論を仕事に置き換えた時に、追加で考慮したほうがいいのは時間軸かもしれない。

生活の中で投入する工数も大きいし、成果として報酬に反映されるから、早く夢中になれるに越したことはない。

 

出来る限り早く「人並み」に持っていく努力をし、そこに時間がかかりすぎるようだったら向いてないかもしれないという判断と、「人並み」になってからどうするかという判断は、早いほどメリットが多い筈だ。

ちなみにこの「人並み」まで身につけていない若手の転職相談は、結構辛い。

 

そういう若手は、「これは嫌だ」はあっても、「これが好き」「これは楽しい」がないので、方向性が定まらないのである。

そうなると大抵、最初の会社と同じような選定基準で転職し、結局同じ思いをすることになる。

 

まぁ、ご参考ということで。

 

「未来のイノベーターはどう育つのか」 読了 〜本テーマについての解はある程度見えた〜

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職業柄イノベーション関連の書籍には目を通すことにしている。

小学二年生の父親としても子育てテーマには関心があり、レビューも高評価だったのでポチった次第。

 

著者のトニー・ワグナー氏は、ハーバード大学テクノロジー起業センター初代フェロー、ハーバード教育大学院チェンジ・リーダーシップ・グループ創設者、ビル&メリンダ・ゲイツ財団シニアアドバイザーなどの肩書きを持っており、本書で扱うテーマの著者としては資格十分であろう。

本書の構成は、何か理論立てがあって演繹的に展開されるというよりは、イノベーターと言われる人とその親へに対する数多くのインタビュー、イノベーター教育に取り組む機関への取材などから、結論的なメッセージへと積み上げられていく、という感じである。

 

本書の主張自体は、新鮮な驚きに満ちたものというよりは、類書で多く述べられてきたことと違いはないな、という印象であった。

小生なりの解釈で説明してしまうと、本人が夢中になれるものを尊重し、様々な機会を提供することで、その夢中を伸ばしていく、それが結果的にイノベーター育成に繋がるというイメージである。

 

小生としても、イノベーター育成&子育てにおいても、その辺りが「解」なのかなと思っていて、こちらの本を読んでも感じたのだが、夢中で取り組んでいるかどうかが、結局はビジネスとしての勝利に繋がるのであり、そう思える方向性をいかに見出し、伸ばしていくかが長期の戦略なのだ。

dai19761110.hatenablog.com

 

「どうする?日本企業」のレビューでは、サラリーマン経営者は創業経営者に勝てないという、三品先生の見解を紹介したが、創業経営者ほど、自らの事業に夢中な人は居ないはずである。

ちなみに、「夢中」の話はこちらのエントリーでも触れた。

dai19761110.hatenablog.com

 

そう、「努力は夢中に勝てない」のである。

だからこそ結局は、夢中になれるものを見出す支援をし、それを伸ばす機会を提供し、(結果的に、かもしれないが)なんらかの形でビジネスとして回収していくというのが、イノベーター育成なのだと思う。

 

余談だが、「イノベーター」に関する「使える」表現が本書にあったので、メモ的に記載しておく。

旧来のMBAホルダー的な考え方が、いかに効率的にオレンジからジュースを絞り出すか、だとすれば、イノベーター的な考え方というのは、どうやったら良いオレンジを育てることができるか、ということだそうである。

 

結局、わかったようなわからないような話かもしれないが(苦笑)。

まぁ、ご参考ということで。

 

 

「21世紀の戦争論」 読了 〜人間は同じことを繰り返す〜

まずはリンク。

 

半藤氏と佐藤氏の共著で昭和史を語るとなれば、それは重厚な議論が期待されるところであり、思わず食指が伸びるというもの。

特に、戦争という極限状況を扱ったものであれば、戦略やマネジメントにも意味のある知見が得られるのでは、という期待感で読んだ。

 

本編は、ノモンハン事件等、昭和史の主要なインシデントを、両著者の膨大な知識をもとに解説していく、というもの。

元は、文藝春秋誌上での対談連載なので、話の流れを追っていくだけで読み進めることができる。

 

ジャーナリスト出身の半藤氏による、関係者へのインタビューをベースにした知られざる事実。

外交交渉の最前線に居た佐藤氏の、深い深い「読み」。

 

高度なエンタテインメントとして十分成立するのだが、戦略、マネジメント論としても期待通り考えさせられる。

既に戦争のルールが変わっているにもかかわらず、自分たちの組織の都合でアップデートできない日本軍。

 

「こと」ではなく、「ひと」のマネジメントに走る官僚組織。

結果、自分たちに都合の悪い事実から目を背け、根拠の無い楽観論で暴走する。

 

暴走して失敗しても、同質化した仲間内での「ひと」マネジメントなので、波風立てるのを恐れて責任の明確化ができず、振り返りも改善もできない。

今更引用もしないが、「失敗の本質」で語られていたことと同じ。

 

しかしこの問題、今も続いてないですかねぇ。

本書でも、同じ過ちは繰り返されるだろう、と断言しているが…。

 

小生も背筋が寒くなったので、ちょっと振り返って改めたいと思う。

まぁ、ご参考ということで。

*1:文春新書

*2:文春新書

*3:文春新書

「写真の上達には近道がある」 読了 〜イノベーションとは新しい視点を得ること〜

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写真の上達には近道がある カメラの使い方より大切な「見る力」を身につける方法

写真の上達には近道がある カメラの使い方より大切な「見る力」を身につける方法

 

 

小生はカメラと家族の写真を撮るのが好きで、趣味の延長で買った本。

とはいえ何故このブログで取り上げるかというと、本書のサブタイトルに記載のある「『見る力』を身につける」ということが、イノベーションやアイデアにはとても大事だと思っているから。

 

本書自体はとても短く、小生はセールで買ったものの、定価で買うのはどうだろう、というボリュームではある(ものの10分くらいでサラッと読める)。

内容も初心者向けでわかりやすいと思うが、もちろんビジネス的なイノベーション観点で書かれているわけもなく、あくまで「これから写真を始める人」向けである。

 

本書の要旨は、とにかくカメラを持ち歩き、気になったものを撮ろうと。

そして好きな写真を真似しながら、目の前の光景を「良く見」ようと。

 

写真家の中には、人の行かないところに行って、なかなか見られない光景を作品にする人もいるけれど、結構な割合の写真家が、比較的身近な光景を題材にしている。

作品になる光景は、我々は目にしているのに、気に留めることがないだけなのだ。

 

既にあるものの中から「絵になる」光景を切り取る行為が大事で、それはこちらからの能動的な姿勢と、実際にシャッターを切るというアクションの積み重ね。

これは実際のイノベーションやアイデア発想のプロセスと、なんら変わらないことだと思っている。

 

「本当の発見の旅とは、新しい風景を探すことではない。新たな視点を持つことなのだ。」

マルセル・プルースト

 

まぁ、ご参考ということで。

 

「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」 読了 〜インバウンドおさらい〜

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中国人富裕層はなぜ「日本の老舗」が好きなのか ―中国インバウンド54のヒント

中国人富裕層はなぜ「日本の老舗」が好きなのか ―中国インバウンド54のヒント

 

 

 著者の前著はこちら。

「爆買い」後、彼らはどこに向かうのか?―中国人のホンネ、日本人のとまどい
 

 

前著も結構面白かったので、本作のセール案内で思わずポチった次第。

最近ちょっとインバウンド系の案件はご無沙汰なのだが、知識としてアップデートしておきたいという意図もあり。

 

本の内容は、「54のヒント」とある通り、中国人向けのインバウンド施策を考えるビジネスパーソンに向けた、多元的な提言。

平易な文章であり、著者が足で稼いだリアルな情報が満載で、飽きさせない。

 

とはいえ、前著も読んでいた人にとっては、取り立てて新しい情報は無いかもしれない。

そして、昨年の本ではあるものの、ボヤボヤしていると彼の国の情報・状況はすぐにアップデートされてしまうので、引き続き情報収集は続けていかないと、既に情報は劣化しているかもしれない。

 

まぁ、「人」と向き合うにあたり、それが何人であろうが、過去のイメージや身近な知見で語ってはいけなくて、常に謙虚に、真摯に分析・判断しなくてはならないんだけどね。

日経ビジネスオンラインとかの連載記事のように、非常にとっつきやすく、「へー」という感じでスルスル読めるので、インバウンドのビジネスに関わる方は是非ご一読を。

 

まぁ、ご参考ということで。