人間到る処青山あり

諸々よもやま話(とりあえず)

「どうする?日本企業」読了 〜厳しすぎて耳がいたい〜

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どうする? 日本企業

どうする? 日本企業

 

 

何度か申し上げているのだが、三品先生の大ファンなのである。

先日のこちらも、出色の出来であった。

 

dai19761110.hatenablog.com

三品理論の根幹は、事業モデル(立地という)には賞味期限があり、個々の企業努力では如何ともし難く、その事業モデルから転地を為すことこそ戦略であり、戦略は経営者という人に宿る、という信念である。

 

経営者についていうと、「操業経営者(≒サラリーマン経営者)は創業経営者に絶対に勝てない」というものである。

故に、企業の持続的成長のためには、創業経営者を生み出し続ける試みが必要であり、それは新規事業を任せることだ、とつながってくる。

 

小生が新規事業の意義を説いて回るバックボーンは、この三品理論による。

本書では、その三品理論を踏まえ、現在の日本企業で神話・信仰となっている「イノベーション」「品質」「浸み出し(多角化)」「新興国進出」などのテーマについて、具体的な日本企業をケースにしながら、厳しく疑義を唱えている。

 

知的刺激に溢れており、全ての文面を引用したい欲求に駆られるが、個人的に反省をした「浸み出し」と、とても説得力があった「新興国進出」について触れておきたい。

「浸み出し」というのは、新規事業に進出する際に、飛び地ではなく隣接地に「浸み出し」ていく方法論のことなのだが、この点に関して三品先生は厳しい指摘をされている。

 

小生も会社のリソースを生かすという観点から、「浸み出し」を推奨することが多かったのだが、三品先生のご指摘は虚心坦懐に受け止めておきたい。

簡単に要点を記すと、隣接地だからといってビジネスの要諦も近いとは限らず、安易な思考停止として選択しているのではないか、ということと、真に新しい価値というのは「よそ者」こそ作れるのだから、飛び地にチャレンジすべきである、ということである。

 

もう一点の「新興国進出」の方は、その論理展開が面白い。

海外のことを真に理解するのは難しいので、日本企業が「新興国」だった時に、外資から自国産業を守るために何をしたか、という検証を行うのである。

 

詳しくは本書を参照いただきたいが、皆さんは日本が本当に外資にオープンになったタイミングは、いつ頃だと思うだろうか?

三品先生の分析によれば、それは戦後50年が経過した90年代後半であり、「びっくり」である。

 

そりゃ、新興国に進出したくらいで、簡単に勝てるわけがない。

その上で、どのような産業が、新興国進出に向いているか、という提言まで含めて章をまとめており、ご興味のある向きは是非ご一読いただきたい。

 

本書の終章では、これからの日本企業にむけたメッセージで締められるのだが、これも重く受けとめた。

企業のレゾンデートルというのは、「いままで買えなかったものを買えるようにする」か「今までになかったものを買えるようにする」のどちらかしかない、と仰るのだ。

 

前者に依拠して、新興国企業と戦う目は、無い。

では後者だとすれば、どうするのか。

 

それは、企業として何を世に問うのか、という志がなければならない、という風に小生は理解した。

ますます三品先生のファンになってしまうのである。

 

まぁ、ご参考ということで。

「ナイスガイ」であれ

今日読んだこのブログは面白かった。

simplearchitect.hatenablog.com

 

アメリカに住む日本人が、自宅にバカでかい防音室のキットを設置しようとする体験を通じて、いかに日本人がチャレンジしないメンタリティになってしまっているか、アメリカに住む人々がいかにチャレンジが当たり前になっているかに気付かされる、という内容である。

エピソード単体でも面白いし、一つの文化論としても面白いので、是非ご一読あれ。

 

個人的に刺さったのは、エピソードで登場するアメリカ人に、「いい奴」が非常に多いということ。

小生の本当に僅かな交流の経験でも「いい奴」は多かったし、現地のドキュメンタリーとかリアリティショーとかドラマなんかを見ていても、「いい奴」に対する肯定感は強いと感じる。

 

困っている人がいれば、見返りを求めずに手を差し伸べるとか、新しい取り組みを肯定的にフィードバックするとか。

もちろん、東海岸と西海岸、南部と北部とか、彼の国の国民性を、簡単に断ずる話ではないのだが。

 

これは国民性の話ではあるものの、ビジネスでも大きな違いがあるはずだ。

例えば、会社の中で、何かのトラブルが発生したとする。

 

周りの人間が当たり前のように手伝ってくれる組織と、お願いすれば手伝ってくれる組織、お願いしても「なんでやんなきゃいけないの?」というリアクションがまず出る組織、どれが強いかは自明であろう。

組織風土、文化として「いい奴」をどう増やすか、という議論もあるし、そういう「いい奴」をどうやって集めてくるか、という話もある。

 

古き良き時代のリクルートでは、能力はともかく「いい奴」かどうかを採用基準にしていたことがあると、大先輩から聞いたことがある。

江副さんは、そういうことを狙って取り組んでいたのかもしれない。

 

ちなみに、小生の考える「いい奴」は、「人の幸せを、心から喜べる人間(byドラえもん のび太結婚前夜)」である。

まぁ、ご参考ということで。

「『エンタメ』の夜明け」 読了 〜これこそ新規事業〜

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冒頭申し上げてしまうが、これは圧巻に面白かった。

ディズニーランドを日本に誘致した男たちの物語である。

 

いずれも電通に縁のあった、小谷正一氏

ja.m.wikipedia.org

 

と、堀貞一郎氏である。

ja.m.wikipedia.org

 

本書では、この二人の人物伝を軸に、戦後日本のエンターテイメントの勃興・交流と、サブタイトル通り、ディズニーランド誘致・開業までのストーリーが語られる。

冒頭からいきなり、堀貞一郎氏が勝利をもぎ取った、ディズニー経営陣へのプレゼンの場面である。

 

これがあまりに魅力的で、グイグイと引き込まれていく。

そんなプレゼンされれば、そりゃ勝てるよ、である。

 

続いて、その堀貞一郎氏の師匠であり、日本にディズニーランドを呼べる地ならしをした(といっても過言ではあるまい)小谷正一氏のビジネス戦歴が綴られていく。

小谷氏について、小生は本書で初めて知ったのだが、井上靖の小説のモデルになるくらいの伝説のプロデューサーなのだそうだ。

 

ちなみに小説はこちら。

黒い蝶(新潮文庫)

黒い蝶(新潮文庫)

 
猟銃・闘牛 (新潮文庫)

猟銃・闘牛 (新潮文庫)

 

 2冊目は闘牛の方が、小谷氏をモデルにした作品のようである。

 

小谷氏の来歴が語られると同時に、戦後日本のエンターテインメント領域の群像劇のようにもなっており、ただただ「へー!」と感心するエピソードばかり。

著者の馬場氏は、企業人として広報の仕事についていた縁で、堀氏と面識を持ち、その後FMラジオでエンターテインメントの業界関係者にインタビューする番組を、20年に渡って運営していたそうだから、これらのエピソードの手触りたるや、である。

 

皆、何もないところから作り出していく荒削りさと、バイタリティを持ち合わせ、何よりも仕事を楽しんでいた様子が伺える。

まさに新規事業の醍醐味と、小生なんかは感じてしまう。

 

ディズニーファンが期待する内容ではないかもしれないが、ディズニーランドを楽しんだことがある人、ビジネス的にディズニーランドに興味を持っている人、エンターテインメントをビジネスにしようとしている人には、是非オススメしたい。

ビジネスのノンフィクションとして、圧巻の面白さである。

 

まぁ、ご参考ということで。

 

 

 

 

 

 

 

「打ちのめされるようなすごい本」 読了 〜教養のブックリストとして〜

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打ちのめされるようなすごい本 (文春文庫)

打ちのめされるようなすごい本 (文春文庫)

 

 

著者の米原氏は、既に故人なのだが、ロシア語通訳として活躍された人。

大変な読書家でもあり、各所で書評やエッセイを残し、今なお人気がある作家と認識している。

 

今回、著作を読んでみようと思ったのは、佐藤優氏の本を読んでいて、米原氏の名前が出てきたので、興味が湧いたから。

dai19761110.hatenablog.com

 

「交渉術」の後半は、佐藤優氏の回顧録になっているのだが、その中で米原氏は、とても一介の通訳とは思えないような存在感を纏って現れてくる。

ただの通訳なんだけれど、ロシア語通訳者が多くないために目立ったのか、それともやはり特別な人だったのか、興味が湧いたのだ。

 

本書を読んでの感想としては、やっぱりちょっと特別だったのかな、というところ。

ロシア語圏と日本語圏で育ち、それぞれの国の古典を片端から読んだという多読に裏打ちされた、幅広い教養と感性は、特に尖ったところは無くても、自ずと奥行きを感じさせるし、その独特の仕事や関わった人々との経験は、とても興味深いものを持っている。

 

本書について言うと、各種雑誌での書評を中心とした連載、エッセイを取りまとめたもので、ボリュームとしては相当多い(文庫2〜3冊分といったところか)。

連載時期は大体2000年前後で、彼女の没年を考えると晩年に近いあたり。

 

取り上げるテーマは歴史・文化などの教養に類するもの、ロシア・旧ソ連関係、そしてガンと闘病していたこともあって、詳細は取り上げられないが健康法関連。

小生がビジネス系書籍しか読まないこともあって、米原氏と読書の被りがなく、非常に新鮮であったし、ブックリストに保管したものも多数あった。

 

しかし、個人的に違和感があったのは、国際政治のリアルな場面に立ち会っていた人物の割には、ライトに流通するアメリカ謀略史観的(自民党政権アメリカの手先的なアレ)コメントが多々あったこと。

そして残念だなと思ったのは、がん治療について代替療法の方向へ振れてしまっていたことである。

 

代替療法については、著者自身も信じきっているわけではなく、少し距離を置きながら、ではあるが、「うーん、そっち行っちゃうか…」という風には感じてしまう。

人間、命の危機が迫ると藁にもすがる、ということではあろうから、小生も著者を笑うことはできないのだが。

 

また、冷静に考えると、先のアメリカ謀略史観も含め、2000年代初頭に勢いを持って流通していた言説だったようにも思うので、いかに知識・教養があるといえども、社会の風潮から無関係ではいられない、ということかもしれないのである。

単純なブックリストとしても、エッセイとしても、書評としても面白い本であったが、思想と時代性ということについても、考えさせられる一冊であった。

 

まぁ、ご参考ということで。

 

 

新規事業をめぐるいくつかの誤解

新規事業に関わる仕事をしていて、よくクライアントから質問を受けるのだが、新規事業にまつわる常識的に流通している話題の中で、「まぁそうなんだけど、ちょっと違うんだよなぁ」と感じることがある。

小生個人の意見なので、絶対正しいというつもりはないのだが、こういう意見もあるのだなという感じでご理解をいただければ嬉しい。

 

その1

△ぶっ飛んだアイデアが大事だ

○儲かるネタを見つけてくる

 

昨日のエントリーでも述べたが、基本的にアイデア力で勝負しないようにしている。

よく、「アイデアは一万人が考え、百人がチャレンジし、一人が勝つ」というようなことが言われており、いくら「ぶっ飛んだアイデア」のように思えても、同じようなことを考えている人たちはいくらでもいる。

dai19761110.hatenablog.com

 

むしろアイデア発想に注力するくらいだったら、具体的な商売のネタを掘りに行った方が、よっぽど有意義だったりする。

いま、フランチャイズビジネスで伸びているのが、24時間のフィットネスだそうである。

 

フィットネスのフランチャイジーになるのは、多くの会社で新規事業とは言わないと思うが、なぜ24時間のフィットネスが伸びているかというと、人を雇わなくて良いから、だそう。

コンビニでも外食でも、複数人を雇う前提だけれど、昨今の人手不足で、FC加盟しても、そもそもオペレーションが成り立たない(24時間のフィットネスは日中に加入受付が一人いるだけで、「あとは勝手にどうぞ」ということらしい)。

 

なるほど、そうであれば、24時間フィットネスをやるかどうかは別としても、これから考える新規事業は、オペレーションに人手が掛かるものは難しいかもしれないな、という風にネタが活かせるはずである。

こういうことは、「ぶっ飛んだアイデア」を考えようと努力するだけでは、なかなか思いつかないかもしれない。

 

その2

抵抗勢力が足を引っ張る

○まともな判断をしているが故に前に進めない

 

「新規事業をやろうとすると、抵抗勢力に激しく足を引っ張られるんでしょうか?」と聞かれることはあるけれど、そんな漫画に出てくるような悪者というのは、滅多にお目にかかれない。

そんな悪者がいれば、正面から戦って勝てば良いのだが、多くの場面はそうではない。

 

新規事業というのは、当たり前だが不確実である。

そういう不確実なものは、確実なビジネスで勝ってきた人達からすれば、ロジカルに突っ込むところが満載である。

 

潰そうと思って突っ込まなくても、今までのビジネス経験からすれば、「素」の質問が、知らず知らずにアイデアの勢いを削いでいく。

それこそ、「確かに面白いけど、品質保証ってどうするの?」みたいなレベルで、非常に「まとも」で常識的な質問ゆえに、熱意をもって検討していた起案者自身も「そう言われればそうだ。あれ?どうするんだっけ…」となり、一気にスピードダウンしてしまう。

 

この辺りが非常に難しく、外部の人間が呼吸するように新規事業の芽を潰している可能性があり、究極的には非合理な意思決定無くして、新規事業は立ち上がらないのでは、という風にも考えている。

クリステンセン先生の「イノベーションのジレンマ」も正に同じ話だと思っていて、多くの場合、顧客も「いらない」と言っていたもの、すなわち「業界の常識でNo」というものが、既存市場を破壊するのである。

dai19761110.hatenablog.com

 

その3

△本業が忙しすぎる

○新規事業に没頭するほどワクワクしない

 

これは制度設計とか、組織体制でも時々議論になるのだけれど、検討の途中で本業が忙しくなって、前に進まなくなるケース、というのがある。

確かに、今のビジネスパーソンは非常に忙しい。

 

だから、本業を抱えながら新規事業を検討していて、本業にリソースを取られて検討が前に進まない、ということは理解できるのだが、小生の経験でいうと、本当に「イケるかも!」「ワクワクする」「お客様からすぐにでも欲しいと言われた!」となれば、皆なんとかするものである。

裏を返すと、「本業が忙しくて前に進まない」というケースは、殆どの場合、なんらかの形で壁にぶつかっているのではないかと睨んでいるのだ。

 

そうなってしまうと、事業案を大幅にピボットさせるか、その時点で検討をストップする方が、起案者にとっても幸せ。

そこを強引に進捗管理をしても、皆が不幸な思いをしてしまうと思う。

 

長くなってしまったが、取り敢えずこの三つ。

誤解を持ったまま進めていても、どんどんズレてしまい、皆が不幸になるだけでなく、むしろイノベーションが後退してしまうので、敢えて述べさせていただいた。

 

まぁ、ご参考ということで。

 

 

アイデアを捻り出す方法

基本的に、仕事において発想力で勝負しようとは考えていない。

多分、そういったものは特別な才能があったり、訓練を受けた人たちの領域だと思っている。

 

とはいえ、仕事での行き詰まりを打開するとか、やっぱり発想力を求められる瞬間というのは、どうしても発生してしまう。

そういう時はどうするか。

 

・とにかくインプット

アウトプットが出ない時というのは、そもそもインプットが足りてないことが多い。

イデアが「溢れ出す」までインプットを続ける。

 

・切り分けて考える

鳥の目⇔虫の目、短期⇔長期、それを行ったり来たりしてみたり。

自社・顧客・競合(3C)、具体と抽象、定量と定性なんていうあたりをよく使うけど、どちらかというとこれはロジカルシンキングなんだよね。

 

・何かに例えて考えてみる

ビジネスモデルや競争環境、歴史的背景や登場人物なんかを、他の業界、過去の歴史なんかで似たようなものがなかったのか、参照してみる。

似たようなケースがあれば、その時のブレイクスルーを援用して解決してしまうことがある。

 

・気分を変える

「三上(馬上・枕上・厠上)」という言葉があるが、小生の場合は、歩いている時に何かを思いつくことが多いので、とにかく歩く。

kotobank.jp

 

あとは、思いついたことを忘れないように、ちゃんとメモを取るっていうのは大事。

こうして見てみると、発想というのは、実は、経験や知識が重要なのではないか。

 

世の中的には、「若い人の斬新な発想を!」なんて期待する向きが多いのだが、色々ワークショップをやってきた経験からすると、若い人の方が経験量が少ないためか、斬新なアイデアが出てこないような気がしている。

むしろネットで見たようなことを、浅ーくまとめてきたりして。

 

個人的には、ベテラン勢こそ、発想力に期待していたりする。

ブログネタが思いつかなかったので、50メートルほど歩いてみて、今日のネタを思いついた(笑)。

 

まぁ、ご参考ということで。

 

訃報に思う

昨日、クライアントでお仕事をご一緒した方の突然の訃報を聞く。

ほぼ一年、オンライン・オフラインで何度もやり取りをし、外部へのインタビューにも、ご一緒させていただいたりした方。

 

非常に実直なお人柄だったし、新規事業提案で解決しようとしていた社会課題も重要なもので、壁にはぶつかっていたものの、なんとか打開出来ればなぁ、という矢先のことであった。

心筋梗塞でお亡くなりになったそうなので、突然のことだったのではないかと推察する。

 

ご家族の皆様には、心よりお悔やみ申し上げたい。

しかし、さらに個人的に心を痛めているのは、まだお若く(小生と年齢はほぼ変わらない)、小さなお子さんがいらっしゃったはず、ということ。

 

事業提案も、ご自身の体験から出発した子育て環境に関わるもので、こういった形で検討を終えるのは、無念に絶えないだけでなく、残されたお子さんや奥様のこれからを思うと、とてもではないが平静で居られない。

だからといって、小生になにかができるわけではないと思うのだが、少なくとも故人の想いを継いで、なにかを世に残していくことだけは誓いたいのである。

 

こういう時、やはり思い起こしてしまうのは、スタンフォード大学で2005年に行われたスティーブ・ジョブズのスピーチだ。

www.nikkei.com

 

本スピーチについて、今更なにかを語る気はない。

引用する小生の想いを汲んでいただけると幸いである。

 

小生にできることを、これからも精一杯取り組んでいき、かけがえのない一日一日を、真剣に過ごしていきたい。