人間到る処青山あり

諸々よもやま話(とりあえず)

新規事業が生み出される組織とは

小生は普段、企業において新規事業を生み出すための仕組み作りや、具体的なアイデアを形にするための、外部からのサポートを仕事にしている。

昨今、新たな事業の柱を生み出したいという企業の想いは強く、良い仕事をたくさんご一緒させて頂いたが、ここに来て、色々と考えるところがある。

 

社内提案で多くの社員から叡智を結集するにしても、プロジェクトチームを組成して研ぎ澄まされたアイデアを吟味するにしても、確からしい事業がドンドン生み出されている状態というのは、そう簡単に実現できる訳ではない。

なので、クライアントの中の人も、外部支援者の我々も、「ああでもない、こうでもない」と試行錯誤を重ねて来た。

 

しかし、本来新規事業というのは、「いつ」「どこで」「誰が」考えて、実行に移したって構わないはずだ。

もちろん、リソース配分や、予算権限のルールを侵してはいけないけれど、ルールに抵触しない限りにおいては、社員というのは何をやってもいい(特に日本の会社は)。

 

社内提案制度や「20%ルール」

business.nikkeibp.co.jpや、特定のプロジェクトチームが無ければ、新たな事業が生まれないというのでは、組織のあり方としておかしい。

いや、新規事業が生まれてこないのだとしたら、組織のあり方こそが、おかしいのかもしれない。

 

本当に新規事業が生まれていないのであれば、新たな提案が憚られる文化があるのかも知れない。

生まれているけど、形になっていないのであれば、育成のプロセスに問題があるのかも知れない。

 

形になっているのに、経営側がそう感じられないのだとすれば、組織の風通しに問題があるような気がする。

上記いずれでもなく、出てくる新規事業が単純に経営側にとって物足りないのであれば、それはちょっと僭越な物言いだが、経営側が推進するテーマやプランを定めるのが筋だろう(長期の経営戦略の遂行手段としての新規事業である)。

 

いつでも、どこでも、誰でもが、新規事業を考え、実行に移し、可能性のあるものが本格的に推進され、イノベーションが起きていく。

そんな状態をゴールとするならば、それは組織ビジョンや、人事評価制度まで含めて変えていく必要があるのだけれど、そこではやはり、新規事業の提案制度を「お祭り」として展開するのが、一つの方法なのではないかと暫定的に考えている。

 

①あくまで「お祭り」とすることで、硬直的な組織に波を立てる。

②しっかり報奨金等で報い、とにかく参加率を上げる。

③提案されたアイデアをどこかの部門が引き取るのは自由だが、事業化の件数は厳密にコミットしない。

 

②については、サラリーマンの「べき論」からすれば、お金なんか無くても提案してほしいものだが、個人的な経験値では、やっぱり効く。

殆どの社員は、そのあたりの設計で会社の本気度を見ているし、優秀な社員ほどプライドが高いので、表彰されなかったらカッコ悪いという心理から参加を見送るケースもある。

 

報奨金を提示してあげれば、「報奨金欲しさにテキトーなのを幾つか出しただけなんだ」という言い訳を用意してあげられるし、結果的に数が集まれば、良いアイデアに繋がりやすい。

人間なんてそんなものだ。

 

③については、企業のニーズと逆行しているのは重々承知なのだが、制度が無理に事業化を前提としていくと、色々齟齬が発生し、長期的にはネガティブな影響もゼロではないと考えている。

出て来たアイデアが、経営者にとって(潜在的に)やりたかったアイデアなら良いのだが、そういったものが出てこなかった時に、相対的に良かったものが選ばれることになる。

 

ではそれを単なる表彰にとどめず、具体的に事業化するとなると、今度は、その後のプロセスが迷走しやすい。

やりたかったアイデアではないから、経営としてもよく分からないので、何を持って成功・失敗と定義するのか、本当にうまく行くのか、不安になってきて、「検証期間」という名の「先送り」が始まる。

 

みんなやった事がないので、検証期間中のタスク設定も、プロセスの評価も曖昧になりやすく、疑問や不安の中、結局ビミョーな感じで「検証期間」の最終報告を迎える、という事態も起こりうる。

経営側も、事務局も、起案者も、「なんでこんなことやってるんだろう?」という気持ちになってしまったら、ほんと最悪である。

 

もしコンテストの中で、「そのアイデアいいね!私のところでやらせてください!」と言ってくれる、それなりの役職の方がいれば、多分そんなことにはならないのだが、自発的に引き取る声無しに、事業化を追い過ぎてしまうと、不幸な結果に繋がりかねないのでは、という心配がある。

長々と書いてしまったのだが、やはり「なんの課題を解決するために、制度を設計し、運営していくのか?」という本質的な問いを、深く深く追求し続けなければならないなと、最近つくづく思うのである。

 

2018年4月時点では、企業の新規事業開発は、ボトムアップなら「お祭り」、トップダウンなら長期戦略の遂行であるべき。

そんなことを考えている(すぐ考えを改めるかも知れないけど)。

 

まぁ、ご参考ということで。

 

 

 

 

 

リアル「Hard Things 」に幸あれ

今日は、ここ数年やり取りをしている起業家と、久し振りのミーティングであった。

ときに、皆さんは「Hard Things 」という本をご覧になったことはあるだろうか?

 

※リンクはこちら

HARD THINGS

HARD THINGS

 

 

今日お会いしていた起業家も、ここまで酷くは無いが、しばらく大変な苦労をされていた。

小生も可能な範囲でお手伝いをしていたものの、焼け石に水でしかなく、なんとかならないかと考えていた。

 

久し振りに近況を伺い、一筋の光明を見出した様子が感じられ、少し安心したのだけれど、それとて、不確実な中を、とことん突っ込んでいったから、それが逆に「浮かぶ瀬」として活かすことができるようになったという、極めて痺れるストーリー。

聞くところによると、少し前は、あまりに生々し過ぎて「Hard Things」を読み進めることができなかった、とのこと。

 

それだけの苦しい思いをしながら、なお世に新たな価値を問わんとする起業家に、心から尊敬の念を抱かずにはいられない。

全ての起業家に、幸多からんことを。

 

まぁ、ご参考ということで。

 

「Amazon真の強さの理由」 読了

 まずはリンク。

Amazon真の強さの理由

Amazon真の強さの理由

 

 

アマゾンジャパンの立ち上げ期に参画し、長く務めた著者による、タイトル通りの本。

値段も345円だし、ボリュームも値段なりなので、比較的簡単に読める一冊。

 

ビジネスやAmazonという会社に関心があって、それなりに書籍や記事等を読んでいる人にとっては、それほど新しい発見はないと思う。

とはいえ、それが一冊にまとまっていて、平易に読めるというのは価値があるし、それなりに記事を読んできたり、中の人の話を聞いてきた小生でも、「Still Day One」という、まだまだ成長物語は始まったばかり、という彼らのビジョンは、事業成長の歴史と照らし合わせると、「なるほど」と思わせるものがあった。

 

ジェフ・ベゾス 果てなき野望

ジェフ・ベゾス 果てなき野望

 

こういう本もあって、「Still Day One」と「果てなき野望」というタイトルに関連性を感じずにはいられないが、なるほどこれだけの成長をもたらす企業というのは、このようにしてできてきたのか、という興味を満たすには、十分な本であろう。

 

現実に中にいたからこそ語られるエピソードもあり、企業の成長ストーリーとして、面白く読ませていただいた。

まぁ、ご参考ということで。

 

 

 

ビジョンとマネジメント

まずはリンク。

headlines.yahoo.co.jp

 

旬の話題だから、今日記事にする以外ないなと思い、ちょっとコメントしておきたい。

小生、サッカーについては一般教養レベルしか持ち得ていないのだが、上記リンクの記事は、ビジネスの観点からも、大いに首肯させられるところがある。

 

サッカーというのは、ホーム&アウェーの有利不利はあるものの、世界共通のルールでフラットに戦い、わかりやすく結果が出るという意味では、とてもシンプルでフェアな世界だし、ビジネスも同じといえば同じだ。

そういう中で、日本人の(日本の)強みと弱み、選手層の厚みと育成、地域内での競争環境、予算なんかの要因を加味して、どのように戦って行くのか、というビジョンが、本来あってしかるべきだ。

 

目先の勝敗に一喜一憂していては、偉大な成果には繋がらないし、そういうビジョンがあるから、どのような人間にマネジメントを任せるのか、という議論が成立するはずである。

今回の経緯を側で見ていて、非常に後味が悪い感じがするのは、採用の場面でも似たような場面を経験したことがあるからだ。

 

強権的なオーナーが、ビジョンがあるように振舞っているが実際には全く無くて、ブランドのある人材(大手企業出身者、戦略コンサル出身者等)を口説き落とし、現場のマネジメントを丸投げした挙句、短期の成果が出ないからといって退職するように追い込む(争ってまでクビにするまでの根性はない)。

エージェントであれば、誰でも一度は味わったことがあるはずだ。

 

解任された監督に落ち度がなかった訳ではないだろう。

しかし、任命責任というのもある筈だ。

 

任命側の責任は、やはり組織としてのビジョンを示し、そのビジョンにどのように適合していないから解任するのだ、という明快な説明責任でもあると思う。

それすら出来ないのであれば、組織のリーダーの任は担えない筈だ。

 

日本サッカーの組織運営が、より健全な方向に進むことを祈るしかないのだが、最近スポーツ団体は、こんなのばかりで少々呆れることが多い。

転職をお考えの方々におかれては、甘言に弄されて、件の監督のような目に遭わないように祈るばかり。

 

まぁ、ご参考ということで。

 

 

 

「ゼロ・トゥ・ワン」 読了

まずはリンク。

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

 

 

先日もちらっと触れたが、浜松ホトニクス中興の祖、晝馬氏の本

知らないこと、できないことに価値がある

知らないこと、できないことに価値がある

 

 に引き続き、積ん読中だった本書に手をつけた次第。

もう四年もたっているので、遅いといえば遅いのだが、読まないよりはマシ。

 

「ペイパルマフィア」と呼ばれ、現在シリコンバレーで最も活躍する著者による指南書である。

比較的砕けた筆致で本質的な議論が重ねられ、読みやすい一冊。

 

偶然にも晝馬氏と主張は非常に似通っているのだが、要点は真の意味で新しい取り組みにチャレンジしなければ、すぐに真似されてしまうということ。

さらに言えば、いかに「市場を独占できるか?」を意識せよ、ということでもある。

 

独占できなければ、継続的に高い収益をあげ続けることは不可能で、それはペイパルもそうだし、著者が引き合いに出すグーグルもそうだし、晝馬氏の浜松ホトニクスだってそうだ。

本書では、事業として重要な点として7項目提示し、その中に「独占」も入っているのだが、ほかにある「(劇的にブレークスルー可能な)エンジニアリング」「永続性」「隠れた真実(他社が気づいていない、独自のチャンス)」も、結局は「独占」に資するものと解釈した。

 

事業を組み立てる上でも、運営していく上でも、良く「差別化のポイントは何か?」という議論は為されると思う。

とても重要なのだが、この問いから出発してしまうと、いつも「差異化」の議論に矮小化されてしまうと感じていた。

 

ここに、「独占」という概念を持ち込み、「独占できる市場はどこか?」「独占するためにはどうしたら良いのか?」という問いを立てることで、本当の意味で重要な、「差別化のポイント」について、議論できるような気がした。

本書では、「ゼロからイチ」だけに限らず、意味ある示唆が得られるのではないだろうか。

 

まぁ、ご参考ということで。

 

AI・人工知能エキスポに行ってきた

水曜日から本日までビックサイトで開催されていた、「第2回 AI・人工知能エキスポ」を覗いてきた。

最終日の夕方、滑り込みという感じである。

 

しかしそれにしても、テーマに対する関心の高さを反映して、圧巻の人出である。

「なんだ、あの企業は出ていないのか…」という印象が無いではないが、出展企業もそれなりのラインナップだし、「こんなところも出してるの?」という驚きもある。

 

ざっと一通り回った素直な感想としては、随分内容が拡散しているな、というもの。

と、書いておいてアレだが、昨今のブームも、汎用的なツールを使って、各プレイヤーがそれぞれ課題を設定し、それぞれのアプローチで解いているのだから、拡散して当然であろう(別に「ビッグブラザー」みたいなものがあるわけではないし)。

 

それでいて、既に関係者の中では、出来ること・出来ないこと、手間やコストもなんとなく見えてきていると思うので、聞く側に変な期待値もなく、出展企業が思い思いのソリューションをアピールし、それに関心のある企業とが、じっくり商談している姿が散見された。

ガートナーの2017年版のパイプサイクルでは、人工知能は「過度な期待」のピーク期にあったけれども、

https://gartner.co.jp/press/html/pr20171003-01.html

綺麗に(?)幻滅期を下って、地に足が着いてきているのかもしれない。

 

今後、新規事業にしても、既存事業の改善にしても、人工知能やI oTを全く考えずに検討するということはないだろうし、そんなビジネス環境から、新たなリーダー企業が生まれてきそうな予感がする。

次の盛り上がりは、多分汎用的なアプリケーションや、汎用性のある事例が出てからだと思うが、そんな未来を楽しみにしつつ、その盛り上がりをクライアントと共に作れたら、と思う次第である。

 

まぁ、ご参考ということで。

 

 

「知らないこと、できないことに価値がある」 読了

まずはリンク。

 

最近ブックレビューばっかり(苦笑)。

それはともかく、本書は浜松ホトニクス社の中興の祖というべき人物によるエッセイである。

 

クライアント企業の知人が、新規事業にかける意気込みに触れる中で、本書の中の言葉を引用されていたのがきっかけで、読んでみようと思った次第。

エッセイという体裁であり、また雑誌取材がベースになっているのか、大変読みやすい。

 

浜松ホトニクス社をご存知ない方の為に一言添えると、ノーベル物理学賞を獲得された、小柴昌俊先生の研究で有名な、カミオカンデの主要部品を開発・製造しているメーカーである。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/浜松ホトニクス

 

財務的には超優良だし、最先端の領域で実績を作ってきた企業の、中興の祖の言葉なので、興味をお持ちいただける向きも多いことと思う。

本書の感想を一言で申し上げれば、「カッコよすぎる…」である。 

 

未知・未踏の領域にチャレンジするからこそ、人・事業・企業・産業の存在意義はあるのであり、人真似では直ぐに価値のない競争に巻き込まれてしまうと。

実は次に読んでいるのが、ピーターティール氏の「ゼロ・トゥ・ワン」

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

 

なのだが、冒頭を読む限り、偶然にも同じことを述べているようである。

 

さて、本書では、光という研究分野で、最先端に関わっていた著者だからこそ語れる、力強いメッセージが数多く出てくる。

要約して列記すると、

・人類にはまだまだ未知の領域が圧倒的に多い。わかっているような顔をしているのは愚かなこと。

・学校で学べるのはその数少ない「わかっていること」でしかない。学校で学んだことを振りかざして、「できない理由」を並べ立てるのはナンセンス。

・航空力学は飛行機が実際に飛んでから、熱力学も蒸気機関が動いてから後付けで産まれた学問に過ぎない。手探りでも実現させようという、未知・未踏に挑んだ人が居たから進歩は産まれる。

・サイエンスとは、人知を超えた、神の領域に挑む尊い取り組みである。

・幸運の女神は、常に努力している人間にしか捕まえられない。

といった具合だ。

 

小生は必ずしも未知・未踏というわけではないが、新規事業というチャレンジを支援する立場。

この偉大な先人の言葉は、力強く背中を押してくれる感じがする。

 

何か新しいことにチャレンジしている人には、是非読んでみていただきたい一冊である。

まぁ、ご参考ということで。